小夜ちゃん、ずっとひとりで三条くん相手に話してるよ?
「だいたい、聖弥くん、おかしいわ。聖弥くんはスターなのよ? そのスターが農園のお手伝いなんて」
「聖弥くん? あなたは天才なのよ? アルトの音域まで軽々と歌う天才テノール。アタシたち『ガオカ』のエリートの中でも、さらにすごいカリスマなんだから」
 うぇぇ、エリートとか自分で言うんだ。
「アタシたちは選ばれた人間なの。そうね。イチゴに例えるなら、アタシたちは、『あまおう』や『とちおとめ』。ひと粒いくらで売られるような、高級イチゴ」
「その中でも、聖弥くんは、高級中の高級、超超超高級なブランドイチゴなの」
「アタシの夢は、その聖弥くんの超高級ぶりをみんなに分かってもらうことよ。そして、聖弥くんがまた素敵な衣装を着て、眩しいステージに立って歌う素敵な声を、この耳でちゃんと聴くのっ。それが、アタシの夢っ」
 ふうん。
 小夜ちゃん、そんなに三条くんのことが好きなんだ。
 もう一度、三条くんを見上げた。
 うわ、なんて怖い顔。
 三条くんの夢、もう一度、自分の実力でステージに立ちたいって言ってたから、小夜ちゃんの夢はそのまま三条くんの夢と同じだと思うんだけど。
 あんまり嬉しくなさそう。
「日向」
「え? は、はい」
「帰ったら、ちょっと温室を見せてくれないか」
「はい?」
 
 それから、我が家に着くまで三条くんはずっと無言。
 途中で小夜ちゃんに、「お前の家はあっちだろ」とだけ言ったけど、それ以外はずっと黙ってた。
 なにか、すごく真剣に考えている様子で、あたしもどんな顔していいか分からなくて……。
「うわ、まだあったの? この卵の自動販売機」