病室でお母さんと話している間も、ずっとそう呼んでたのかな。
「な……、なんで、聖弥くんが、ジャム子を……、『日向』なんて……」
「あ? 俺は、日向のお母さん公認の宝満農園スタッフだ。いまのところは吉松翔太の代わりだな。今日もこれから作業だ」
 は?
 なに? 公認って。
 そんな話まったく聞いてないし。
 えええ? もしかして、お母さんの話って、そのことだったのっ?
「まぁ、そういうことだから、悪いが小夜、今日はお茶にもお散歩にも行けないからな? 日向、行くぞ」
「え? あ、うん」
 うわ、小夜ちゃん、すごい顔っ。
 怖い怖い怖いっ!
「じゃぁー、むぅー、こぉぉーーっ!」
「ひっ?」
「どういうことっ? どういうことっ? どういうことなのよぉぉぉぉ!」

「ほんとについてくんのか?」
「当然よっ。聖弥くんをコキ使うなんて、どんな悪徳農園なのか、この目でしかと確かめてやるわっ!」
 コキ使ってなんかいません。
 なんですか、悪徳農園って。
 病院を出ると、小夜ちゃんはどうしてもついて行くといって、あたしたちふたりの後ろについて歩き始めた。
 どうしたものかと並んで歩く三条くんを見上げたけど、彼はいつもの無表情のまま。まったく気にしていない様子。
 でもまぁ、最盛期もあと少しで終わり。
 これを過ぎれば三条くんも前の生活に戻ってそんなに一緒に居ることも無くなるだろうし、そしたら小夜ちゃんもヤキモチ妬かなくなるはずだよね。
 ヤキモチ? 
 うわ、別にあたしと三条くんは、小夜ちゃんからヤキモチを妬かれるような関係じゃないんだけど。
 それにしても、三条くん、もうちょっと小夜ちゃんの相手してあげたら?