初めて10万円以上のお金を使った日から、2週間がたった。
「どこの店?」
コウセイにそう聞かれたのは、店を出て、今日の夜はどこに行こうかと迷っているときだった。
ほぼ路地裏。また休憩をしに来たらしい。煙草をくわえたコウセイは、そこに火をつける。
ここには私しかいなくて、コウセイが私に話しかけているのは一目瞭然…。
どこの店の意味が分からなくて、顔を傾けた。
「なんの話?」
「お前が体売ってる店」
体を売ってるお店…。
風俗…。
コウセイの言葉に、私は少しだけ笑った。
「よく分かったね、そういうことしてるの」
「…金の使い方変わったからな」
どうでも良さそうに言うコウセイ。今日も美味しそうに煙草を吸っていた。
お金の使い方が変わった。
実際のところ、私はもう10万くらいのお酒を三本入れていた。
「お店じゃないよ…。普通に声かけられてついて行ってる…」
唇から煙草を離したコウセイは、指に煙草を挟みながら眉を寄せて私を見た。そして言う、「バカかお前は」と、少し声を低くしながら。
バカ?
「ちゃんとした店でやれ、そういうのやんのはバックがある方がいい」
「……バック?」
「後ろ盾。どこぞの知らねぇ男にホテル連れ込まれてとんでもねぇ性癖のせいで殺された女もいる。お前、そうなりたいのか?」
殺された女…?
「ちゃんと女を大事な商品として扱う店もあるから。金稼ぐならそういうとこにしろ」
また煙草をくわえたコウセイは、軽く息を吸っていた。
「…危ないってこと?」
「…お前なら別に本番しなくても稼げるよ」
本番をしなくても?
「え? 風俗って全部本番じゃないの?」
そう言ってコウセイを見れば、軽く眉を寄せていた。
「……ああ」
「そっか、知らなかった」
「…体売るなよ、別に前のままでいいだろ。1回1万で」
前のまま?
お金を使わないってこと?
コウセイは店側なのに?
「使った方が、ユタカが笑顔になるもん」
「ホストだからな」
「そっかあ、本番じゃなくても体では稼げるんだね。いいこと聞いた、店探してみる」
「…やめねぇのな」
「うん、コウセイさんも嬉しいでしょ?お金使う方が」
「さあな」
「さあって?」
「別に俺は人手不足でここにいるだけだから。この店になんの情もねぇよ」
「そうなの?」
「…店、紹介してやる。そこに行け。そこならバックはでかい」
そう言ったコウセイは、とある番号を私に教えてくれた。「店に話は通しとく」と言っていたとおり、その番号に次の日電話をしてみれば、電話の相手の男性から『ケイシさんの紹介ですか?』と聞かれた。
ケイシ?
この番号を教えてくれたのは、ケイシという人ではなくコウセイだから。
「違います、コウセイっていう人です」とその通りに言えば、『ああ、じゃあケイシさんですね。いつ面接来れます?』と軽々と言われた。
ケイシが誰か分からなかったけど、「いつでも大丈夫です」と言えば、その日の夕方に面接が決まった。
その風俗は、本番は無かった。
オナクラという、お客様である男性のマスターベーションを目で見たり、手でお手伝いする事だった。
「ケイシさんの知り合いだから、採用ね。明日から頑張ってね」
と、そこの店長らしい人がいろいろ教えてくれた。その時、聞いてみた。「ケイシさんって誰ですか?」って。
店長らしい人は、「コウセイケイシっていう名前だよ。あの人は」とそれを教えてくれた。
いつも下の名前だと思っていたコウセイという名前は、名字らしかった。