驚いた顔をするユタカ。
それもそうかもしれない。
私は延長をした事がないから…。
今日の財布の中は2万5000円。


「…全部で2万ちょい、かな。…マコ、延長するの?」

「うん、だめかな」

「…ううん、そんな事ない嬉しいよ。でも無理しなくていいよ。そう思ったの、俺があんまりいれなかったからだよね?本当にごめんね」

「…」

「もし良かったら、明日来て? 明日は雨っぽいからお客さんも少ないだろうし…。延長しても呼ばれたら抜けないとダメだから。明日ならずっと一緒にいれそうだし…。ね?」

「…ユタカ…」

「ありがとう、マコの気持ちすごく嬉しかったよ」



そう言ってくれるユタカに、私はやっぱり惹かれてしまう。優しいユタカ…。
明日はずっと一緒に…。


「分かった…、じゃあ今日はこのまま帰るね。明日…、バイト終わってからだから、少し遅くてもいいかな?」

「うん、もちろん。待ってるね」


ユタカは微笑むと、私の頭を撫でる…。
ユタカが本物の恋人だったらいいのに…。




店を出たあと、コンビニに立ち寄った。
そのコンビニの前にまた煙草を吸っている彼がいて。その人も私に気づいたらしい。
静かに目があった。

「…また休憩?」と聞けば、「買い出し」
と、何かが入った袋をヒラヒラとさせた。買い出しに来ているのに、コンビニの前で煙草を吸っているのはどうかと思うけど。


「私はお腹すいたから、おにぎり買いに来た」

笑ってそう言えば、「聞いてねぇよ」と鼻で笑われる。


食べ物といえば、と。
あることを思い出した私は、「あのね、聞きたいことがあるんだけど…」と、その細長い煙草を見ながら、口にした。


「ぽっきーってどういう意味?」


トイレで言われた、その言葉を。


「ぽっきー?」


眉を寄せるコウセイ…。


「うん、言われたの…。女の人に…」

「店で?」

「…うん」

「店のどこ?」

「…トイレ…」


コウセイはその言葉の意味が分かったのか、眉を寄せるのをやめ。


「悪いな、極力気をつけてるけど…」と、質問の返事とは違うことを言ってきた。


「え?」

「指名、かぶり客とは会わせないようにはしてんだけど…。悪いな」


指名…。
かぶり…。
客。
そう言われて分かったのが、さっきトイレであったのはユタカを指名している〝お姫様〟だってことで。

………だとしたら、きっと〝ぽっきー〟とは、私の悪口………。


「お前、あんまここ知らねぇし、調べたら分かるから言うけど、金使う客のこと太客っていうのな?エースとか」


太客…


「逆に使わないのが、細客。だからその女は金使ってない意味でぽっきーって言ったんじゃねぇの、あれ細いし」

「そういう用語があるの?」

「いや?初めて聞いたな」


ふう、と紫煙をはくコウセイを見つめ。
ゆっくり下を向く。

そうか。
私なユタカの他の〝お姫様〟に、そう思われているんだ。お金を使わない〝お姫様〟。



「もっと使った方がいい…?」


静かに呟けば、「使ったらユタカは喜ぶだろうけどな」と、もう一度煙草をくわえる。

ユタカが喜ぶ。


「でも、やめとけ。金を貯めるってのはそう簡単なものじゃない」

「……」

「このままいけば、体を売ることになる。そうはなりたくないだろ」



コウセイの言葉に否定できなかったのは、私も考えていたからだ。
夜のお店で働けば給料が増える。
沢山会いに行ける。
それでも私は体を売るということに抵抗があり、深く考えないようにしていた。


「うん、初めては好きな人としたいし…」


ぽろ、と言えば、「なに、お前やった事ねぇの」と、今日は珍しく煙草を地面に落とすのではなく、コンビニの前にある灰皿へと捨てた。


「…ないよ」

「ふうん、もったいな。いいから体してんのにな」

「何言ってるの…見たことないくせに…」

「ンならホテル行く?久しぶりに処女抱きたいし」

「は、」

「好きなやつって、ユタカとやるには1000万は貢がねぇとな。俺ならタダだし」

「…」

「ま、冗談」


意地悪く笑ったコウセイは、「だる…」と首を鳴らしながらお店の方へと向かっていった。