コウセイに連れられて、私は繁華街から少し離れたマンションに来た。古くもなく新しくもない。きっとここは、コウセイの家。一人暮らしなのか、見た感じそんな気がした。


その部屋の浴室に私を入れようとするコウセイに「…仕事は、」と聞く。コウセイは「休み」と呟いた。スーツじゃない理由が分かった。


「とりあえず血流して来い」と、扉を閉めた。もう傷口は塞がっていたようで、お湯にふれると痛かったけどあまり血は出ず。
ぼんやりと目が腫れたまま、体にタオルを巻きリビングの方に行けば、コウセイに服を渡された。


私は正直、男性と2人きりで部屋の中に入れば、抱かれてしまうと思っていた。けれどもコウセイは頭の傷口を見て、「傷口は小さいな…」と呟きながらガーゼを貼っていた。


「…お前さ、家帰ってねぇの?」

「…うん」

「どこ泊まってんの」

「分かんない…色んなところ…、」


24時間営業のファミレス。
ネカフェ。
ホテル…。


「1番好きなのは、ホテル…、抱かれたあとでも……布団で寝れるから…」

「じゃあ、ここに住む?」


そう言ってくるコウセイに、ゆっくりと顔を上げる。


「…お前ならいいよ」


お前なら……。
何言ってるの…。
付き合ってもない。


「……抱くの?」

「いや」

「抱かないのに、住むって…」

「マユ」

「私の価値は、それぐらいしかないのに…」

「バカ言うな」

「汚いから?抱きたくない?」

「…お前、」

「病気持ってても、一緒に住んでもいいの?うつるかもよ?」


きっと、私の目には生気は無かったような気がする。ちっとも笑ってない。無表情…。

そんな私の元に近づいてくるコウセイは、身をかがめ、口を近づけてきた。



「…うつっていい」



1回、1万円って言ったのに。


私の唇を塞ぐコウセイは、まるで割れ物みたいに大事に扱う。


角度を変え、何度も繰り返しキスをしてくるコウセイは、この時を待っていたかのように離れてはくれない…。


「…口開けろよ」


薄目で、少し枯れた声で、私に命令をする…。言われた通りにそのまま開ければ、また唇が重なった。

離れたのはいつか。

結構、時間が経っていたような気がする。2人の吐息が重なり合い、見つめあった。


「…俺、お前の事知ってたよ、店に来る前から」

「…え?」

「同じ中学だったしな」


同じ中学?
誰が?
私と、コウセイが?


「1回だけ喋ったこともあるんだぞ?」


喋ったことがある…?
怪我のしてない方の頭を撫でるコウセイは、懐かしむように柔らかく笑っていた。


「……いつ?」

「俺が3年で、お前が1年とき」

「……え?」

「俺な、身内が組関係っていうか。みんな怖がって周りに全く人が寄り付かなかったんだよ」


組?


「だからお前のことはよく覚えてる…」


よく覚えてる?
初めて、会話をした時のことを?
私とコウセイは、知り合いだったの……?


「私の名前、知ってたのも、?」

「いや、それは店に来てから初めて知った」

「コウセイさん、…2個上なの?たったの?」

「そこ?」

「だってもっと年上かと…」

「悪かったな、老け顔で」

「そうじゃなくて、大人っぽいって意味…」

「そうか」

「…どうして言わなかったの?初めて会ったみたいな対応して…」

「それはお前が、」


私が?


「ずっと俺に、地元がキライ…みたいな相談してきてただろ?」

「……」

「言ったら、会えなくなると思った」

「……いつから?」

「なにが」

「いつから私の事を?」

「…初めて会った時、いいなって思った。けど好きだなって思ったのはこうして喋るようになってから」

「…風俗も紹介したのに?」

「外でウロウロされるより、安全なところで働いて欲しいだろ」

「好きなの?」

「なにが」

「私の事…」

「そうだな…、ずっとキスしたいぐらい」



ずっとキスしたいぐらい…。

唯一、私の綺麗な場所。