「はい……。失礼、します」

名残惜しげに君は去る。
その細く繊細な手を掴みたかった。

――左手首の痣を一生隠して君のそばに居たかった。


叶わなかった『前世の僕』は、桜木の下、君を待ち続けた。
愛しくて、守りたくて、離したくなくて、好きで、好きで。

だから今でも?


『運命』 だから記憶を忘れていても、彼女に惹かれてしまうのだろうか?
僕の気持ちは、運命という楽譜をなぞるだけの恋。

所詮、線上の、恋。
結ばれたら、終わらせたい彼女の努力が無駄になる。


困って僕は苦笑した。
沢山の楽譜の森の中、僕は一人途方にくれた。


彼女を解放するために。