悲恋二

運命は輪廻するからこそ美しい。

 夏の夜の夢のごとく、運命に気付かなかったあの日。
キミは死にゆく僕を見て、初めて運命を悟った。僕の命が惜しくなれば、キミは僕を思い出す。
燃え尽くす炎の中、キミは何度も何度も振り返って僕の名前を呼んだ。
 君は政略結婚で、望まないまま僕に嫁いできたね。前世では結婚できなかったのに、物心付く頃にはもう僕たちは結婚していたんだよ。
 それなのに、周りは敵だらけ。キミを人質として扱う僕の城はキミにはきっと居心地が悪かっただろうに。いつも太陽のように笑っていたね。キミが健気に笑う姿を見るのが好きだった。
 ただ、抱けなかった。
一度も抱いてあげられなかったのを後悔しているよ。キミはあの前世を忘れていたけれど、僕は覚えていた。あの香り、あの長い髪、雲に隠れた月。僕たちの声を消してくれたあの雨の日。
キミに置いていかれた僕は、キミを思い出しては狂ったようだった。
 だから、今度は抱けない。
もうすぐ、キミの父親に僕の一門は全滅させられると悟っていたからだ。だから、キミを人質の様に結婚させてこの牢獄に閉じ込めたことを許して欲しい。
 キミの僕を見る瞳の奥が、いつも揺れていた。何か言いたげで、でも俺は気づかないふりをした。キミから向けられる、夏の夜に灯る蛍のような淡い恋心を、幼いふりをして見なかった。
 キミを残して消える僕は、キミに薫りを残したくなくて、けれど、キミと離れたくなかったんだ。
 時が経ち、美しい女性になったキミの隣で指一本も触れないで傍に居るのは本当に苦しかった。
剣で腹を掻っ捌く方がまだマシだったよ。時代はすっかりキミのお父様のもので、邪魔な僕は等々言いがかりをつけられて追いつめられて、後はこの城しか残らなかった。
「姫、キミは御逃げなさい」
 燃え始める天守閣を見上げながら、俺は彼女を解放した。
「嫌です。御傍にいさせて。私も御供します」
「駄目だよ。キミの様に美しい女性はまだ未来を生きなければいけない。行きなさい」
 大粒の涙を流す彼女を見て、僕はずっと我慢していたのに彼女の涙に触れてしまった。
「え……」