悲恋四

 出口なし。

 言葉にすればする程に伝わらないならば、一言も言わないで、さよならを告げるよ。
叫んで、泣いて、何度も貴方の名前を呼びました。貴方の心に響かない私の言葉なんて、一体どれくらいの価値があるのでしょうか?
――貴方に響く言葉は、何ですか?

 沢山の、扉があった。円上に並ぶ統一された扉。
僕は、沢山沢山悩んで、迷って、考えて、目の前の扉を開けました。嗚呼、沢山悩んだのに。本当に沢山悩んだのだよ。沢山、迷ったのだよ。
 けれど、全ての扉はどれを開けても、同じ場所にたどり着いた。結論は変わらないんだ。
キミを愛しいと思う。この気持ちに出口なんてないと思ってた。
 けれど、時は始まり終わりを告げる。
キミの言葉が響かない。
僕には何も、聞こえない。キミは何も言わないだろう。何も言わなくても、全て伝わってくればいいのに。
キミの体温、
キミの吐息、
キミの笑顔、
キミの全て。
 触っただけで、分かればいいのにな。
僕は足掻く。もう一度、順番に扉を開く。答えは分かっていても、何度でも。
出口の先の光を信じて、さ。
 そして、出口を探し彷徨っていて、キミと僕のかくれんぼを思い出す。僕が忘れたらキミも忘れて、僕が思い出したらキミも思い出す。
かくれんぼ。
 どちらが思い出すのか、思い出したら悲恋だと決まっているのに。

 屋上から、紙飛行機が飛んでくる。彼女が、楽譜を飛行機にして折っては飛ばしている。
僕は、ただ機械的にソレを拾う。彼女は、多分全部飛ばすんだろう。
――この曲も!
――あの曲も!
――今、弾いた曲も!
――全部、全部教えてよ。
 白と黒を基調とした、キミの部屋で。白と黒のクッションが左右に置かれたソファーで、
キミのお気に入りの紅茶を飲みながら、キミが弾くピアノを聴くのが好きだった。
気持ちよくて、よく眠ってしまっていたっけな。
――おはよう
そう、キミが僕に囁くと、キミは雪を降らせる。真っ白な楽譜を、ヒラヒラと。
――びっくりした?
 楽しそうに僕を覗き込む。腰まで伸びた長い髪が、楽しそうな彼女に合わせて靡く。
――綺麗だった。