サイド:ヒロ=ローズウェル(十二歳)

 と、そんなこんなでローズウェル伯爵家長男として、僕は異世界に転生した。

 ちなみに十二歳の僕の見た目は、線の細い黒髪の美少年みたいな感じになっている。

 いや、ネット小説とかでそういう存在は知ってはいたんだよ。

 けど、まさか本当に異世界転生があるとは……と、最初は驚いたものだ。

 それはさておき、僕が生まれた家はとても裕福だった。


 ――天蓋付きのベッド

 ――大理石の廊下

 ――朝食から出てくる二十品目の贅を尽くした料理

 ――そしてかしずく使用人たち


 物心がついた辺りで、僕は自身が転生者だと自覚したわけなんだけど、それはそれは凄い生活だった。

 後から聞いた話によると、僕が生まれた辺りから農作物の栽培に異変が起きたらしい。

 と、いうのも作物の収穫期間が半分になるという、とんでもない状況になっていたんだ。

 こういう現象はこの世界ではたまに起きることで、神々の天啓と呼ばれるような珍しい現象とのこと。

 過去の例からすると、特定の地域に百年程度続く自然現象らしい。

 で、そういう事情もあってローズウェル家は恐ろしく裕福になって、金遣いも荒くなって……。

 と、豪奢な生活にはそういう事情もあったらしい。

 そして、僕自身としては贅沢三昧は一か月で飽きた。

 っていうか、当時僕は五歳くらいだったと思うんだけど、その頭の中は成人男性だ。

 ここの文明レベルは中世ヨーロッパ程度。

 当然ながら、貴族の生活は庶民の血税で成り立っているのを僕は知っている。

 しかも重税の影響で、貧村のほうでは口減らしのために娘を奴隷商人に身売り……そんなことも行われているそうな。


 ――当然、そんな話を聞くと、贅沢な暮らしは僕の精神にダメージを与えることになるわけだ。


 んでもって、僕は転生者なわけで、当然ながら現代の知識もあるわけで。

 とりあえず、飢饉が起きた程度で餓死者が続出するような生産状況で、僕たちのこの暮らしはやっちゃいけないことだけはすぐに分かった。

 そして、僕の知識は内政関係で役立つこともあるだろうし、その自信もある。

 けれど、ただの子供に政治や農村改革なんかの発言権なんか……あるはずもなかった。

 しかし、僕には希望があるのだ。