追放された転生貴族、外れスキルで内政無双

 あの時、即座に状況を把握して上手く立ち振る舞わねば、悪魔憑きとして処分されていた可能性もあるので……そこは本当に僥倖(ぎょうこう)だった。

 そして――。

 時は流れ、成長したオリバー=ローズウェルの長男を観察していた時に、私は気づいたのだ。


 ――間違いない、あれは……私の会社で働いていた飯島……飯島弘だと。


 最初に気づいた違和感は、奴が考え事をしている時に後頭部をさする癖だ。

 そして違和感が疑惑に変わったのは、貧村を救うためと称し何度も私に現代知識めいた発明器具を提案したこと。

 最終的に疑惑が確信に変わったのは、奴のお人好し過ぎる性格だ。

 入社当時からそうだったのだが、奴は誠実で実直で勤勉だ。

 それは言い換えれば「優秀な奴隷」ということであり経営者としての立場で言うと、あれほど扱いやすい人間もいなかった。

 まあ、最終的には勤続年数の関係で、高給取りになってきたので切ったのだが。

 というか、そもそもからして私は一度、交通整理の会社の事業を失敗しているのだ。

 そういえば……飯島の父親の保険金を持ち逃げした金で星川工業を立ち上げたのだったか。

 そう考えると、親子ともども本当に私の役に立ってくれたな。


 と、それはさておき、私にとってはこの世界で、奴が跡継ぎであることは都合が良かった。

 この世界の貴族制度上、原則的に六十歳になれば当主の座を長男に譲る必要が出てくるわけだ。

 だが、扱いやすいあの男ならば圧力をかけるか、あるいは泣き落としをすれば傀儡(かいらい)政権とすることは容易(たやす)いだろう。

 なんせ、父親の保険金で立ち上げた会社を相手に身を粉にして尽くすような――マヌケ中のマヌケなのだから。

 つまり、私は死の直前まで……この家の権力を全力で行使することができる。

 ――神託の日までは、そう思っていた

「双子の弟は何を考えているか分からんところもある。人生設計を再考せざるをえんではないか……あのグズめっ!」

 人ばらいをした後の、たった一人の夜の執務室。

 吐き捨てるように呟くと、私は執務室の椅子に腰を下ろした。

「まあ良い。人権などという概念が存在しないこの残酷な世界で、領地までの旅路で山賊に殺されるも良し……無価値な領地のボロボロ屋敷で苦しむも良し。どの道、奴の人生は詰んでいる」

 そうして、私はワイングラスを片手にニヤリと笑った。

「即死はしない程度の物品も持たせたしな。ふふふ……私を落胆させるどころか手間までかけさせたのだ……せいぜい苦しむが良いぞ、飯島よ」