「この辺りでよかった?」
「あ、……はい。そのコンビニを右に曲がって、………少し、行ったら」
「了解」
二十分が、あっという間に感じられた。
緊張はしていたけれど、嫌な緊張感ではなかった。
この緊張感から解放されたいと思う一方で、もう少しこのままでも、という気持ちもあって。
複雑、というか。複雑、かもしれない。
「悪い。ちょっと寄るよ」
コンビニの駐車場に車を停めた先生は、エンジンをかけたまま車を降りるとコンビニの中へと入っていってしまった。
ここからでは先生の姿が確認できない。
タバコでも買うのかな。
実際、先生がタバコを吸うのかなんて知らないけれど。
わたしは目を閉じて、流れてくる洋楽に耳を傾け、先生が戻ってくるのを待つ。
吹き出し口からの冷たい風が心地よかった。
「お待たせ」
ドアが開けられ、先生の声が滑り込んできた。
わたしは慌ててシートに預けていた体を起こす。
「あ…、なんか……」
目を閉じていたことが申し訳なく思えて、すみません、と言おうとしたわたしに、
「飲めそうなら」
と。差し出されたオレンジジュース。
「……え?」
反射的に受け取ってしまったけれど、手の中のペットボトルの存在に、戸惑わずにいられなかった。
バタン、とドアを閉めた先生。
「オレンジジュース、飲みたいのかと思って。さっき、これ見て言っただろう?」
シートベルトを締めながらわたしを見て、そして。フッと目を細めた。
「……そんな、」
そんなつもりはなかったんです。
それすらも言えないくらい、胸が締めつけられたように苦しかった。
ドリンクホルダーの。
飲みかけの、オレンジジュース。
わたしの手に。
先生と同じ、オレンジジュース。
「あ、…りがと…ございます…」
蚊の鳴くような声だった。
「どういたしまして」
先生が、また笑った。
泣きたくなったのは、なぜだろう。
目の奥が熱くなって、鼻の奥がツンと痛くなって。うーっと、唸ってしまいたいような、そんな衝動にかられた。
苦しくて、苦しくて。
どうにかなってしまいそうだ。