「おーい、篠田!」
不意に名前を呼ばれ、声のした方を見る。
右手を挙げ、おいでおいで、と手招きするその人は、わたしを保健室まで運んでくれた人。
「……先、生」
おいでおいで、としたくせに、立ち止まったままのわたしのもとに走ってやってきた先生。
白いワイシャツの袖をまくり直しながらわたしを見下ろしている。
「大丈夫か?」
「………ぁ」
目の前の、先生の背中の感触が思い出される。
華奢に見える先生の背中は、思ってた以上にたくましかった。
体温が一気に上昇する。
目の奥がジンジンと熱くなって、先生のことを見ていられなくなった。
「……は、い。大丈夫、です」
俯いた拍子に映る、足元の白と黒。
「あ……」
「ん?どうした?」
「先生……。上履きの、まま」
「あ。本当だ。篠田が、歩いてるのが見えたから、」
慌てて出てきてくれた。
そう受け止めてしまっていいのだろうか。
そう思ったら、なんだか胸の奥が締めつけられたように苦しくなった。
「あ、……あの、」
「篠田は、電車通学?」
なにか言葉を発しなくては、と思ったのと同時に先生が口を開いた。
「……え?」
「今から見回りに行くところだから、ついでに駅まで送ってやる。ちょっと待ってもらうけど。あ、日陰に入って待ってろよ」
「あ、…あのっ、」
引き止めようと伸ばしかけた手は、なんの意味も持たなかった。
白いソックスに、黒色のサンダルを履いた先生は、パタパタと音を立てて校舎の中へと消えてしまった。
「うそ、……でしょ」