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「大丈夫か?」
 ぼんやりと耳に届いた監視役の先生の問いかけに、わたしはきちんと答えられたのだろうか。
 スカートのポケットからハンカチを取り出し、口元を覆う。
 先生が、他にも何か言葉を掛けてくれたような気がしたけれど、返事をする余裕なんてもちろんなかった。
 トイレ……。ううん、まずは、保健室。
 保健室で………。
 ふらふらとした足取りで廊下に出ようとしたわたしの足元に、突如、白い物体が姿を現した。

「保健室まで連れていく」
「………え、」
「途中で倒れたら危ないから。ほら」

 白い、シャツ。
 先生の、白いシャツ。
 わたしに背を向けてしゃがむ、先生の姿。

「………ぁ、」
 意識は朦朧としているけれど、恥ずかしいという感情はかろうじて残っていた。
「あ、の、」
「ほら、早く」
 ためらうわたしの前で、先生の声が優しく響いた。
 先生の言葉で、ふらふらとした足取りがふわふわとしたものになる。
 一歩前に踏み出すと、すぐそこに先生の背中があった。
 間近で見た先生の背中に吸い込まれていく感覚がして、気づいたときにはもう体が浮いていた。
 ゆらゆらと揺れる。
 随分と昔に父親にしてもらったことを、この年になってしてもらうなんて。
 しかも、先生に。大人の、男の人に。
 体じゅうから力が抜けていって、きっと先生は大変だっただろう。それでも、
「もう少し、我慢できるか?」
 そんな言葉を掛けてくれた。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。

 保健室までの道のりを、わたしはぼんやりとしか覚えていないけど。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。

 ただ、そんな言葉を繰り返して。
 ふわふわと揺れていた。