先生がいなくなったのは、オレンジジュースを飲み干してしまったからかな。
 ふと、幼稚な考えが頭をよぎった。
 あの日。体育館で先生とふたりきりで話した日に、先生からもらったオレンジジュースを飲んでしまった。衝動的に。
 先生とあんなふうに会話することなんか、今までなかったから、ちょっとした震えが止まらなくて。心臓がずっとバクバクと動いていて。
 家に帰ると迷わずオレンジジュースを手にしていた。
 常温だったそれをごくごく飲んだ。
 半分ほど飲んだとき、大きく深呼吸をしたら、甘さのあとに微かな苦味が広がった。
 美味しいという感覚よりも、切ないって感覚のほうが強かった。
 喉の奥は熱くて、それを冷やすには頼りないほどぬるくて。ヒリヒリとしみて。
 からになったペットボトルを見たら、涙が止まらなかった。
 
 先生のいない学校は、てきとうなパーツを寄せ集めただけの世界に思えた。
 だからといって、華乃みたいに、
「新しい恋でもみつけるか」
 なんて言葉を簡単に口にしたくはないし。
 先生を好きになってみつけた、優しくて、やわらかで、キラキラと眩しい色は消さないようにしようと思う。
 
 いつか、この黒縁メガネを外すときがきて。オレンジジュースを、他の飲み物に変えるときがきて。
 戸惑うかもしれないけれど、でも。
 きっと、変化していく自分を受け入れられる。進んでいける。

「好き」という言葉は伝えられなかったけど。
 先生でよかった。
 はじめて好きになった人が、先生でよかった。
 そう思います。