frame#000000



 もうすぐ高校生になってからはじめての夏休みがやってくる。
 その前に、乗り越えなくちゃいけない期末テストがあるのだけれど。

「ヤバい。ほんっとにヤバい。どーしよ、和葉ぁ」
 ショウくんと夏休みをどう過ごすか。
 そのことで頭がいっぱいだったらしい華乃は、朝から「ヤバい」しか言ってない。
 わたしに泣きついたところで、どうにもならないことはわかってるはずなのに。
「和葉ー、助けて」
「浮かれすぎて赤点取らないでね、って言ったよ。その様子じゃ、追試決定だね」
「いーやーだーっ!」
「うるさい」
 テスト前の貴重な時間を無駄にしたくないの。
 シッシッと手で追い払う仕草をしたわたしは、授業中に配られたプリントを広げて復習をする。
「ヤバいと思ってるならプリントの一枚や二枚、頭に叩き込めばいいのに」
 まだブツブツ言っている華乃の耳には、わたしの言葉なんて届いていないだろう。


 ……ヤバい、かも…しれない。
 そう思ったのは、目の前の答案用紙のことじゃない。
 ……きもち…わ、る…。
 血の気が引いていく感覚と、イヤな汗。

 三時間目の英語。
 残り時間はあと十分ほど。その時点で、わたしの手は完全に止まってしまっていた。
 下腹部の痛みと吐き気に、あとどのくらい耐えられるだろう。
 もう少し、頑張れそう。
 もう、……無理かも。
 何度かそれを繰り返してきたけれど、そろそろ限界みたいだ。手足が痺れ、意識が朦朧としだした。
 あぁ、もう…ダメだ。
「せ……、せい…。きも…………て、ト……イ、レ……」
 小さく右手を挙げたけれど、先生は気づいてくれただろうか。
 でも。先生の許可なんか待っていられない。
 席を立ち、のろのろと一番後ろまで歩く。
 途中、誰かの机にぶつかって。誰かに何か言われたような気もしたけど。
 足を交互に出すのが精一杯だった。