「きれい、って言うよりは。かわいい、ってかんじで。ねーっ」
先生に同意を求めるように首を傾げ、先生を見上げるクラスメイト。
「きゃーっ」
「やだーっ」
「彼女?」
「えーっ、絶対そうでしょ」
先生の周りで上がった、色のついた生徒の声。
胃がキリキリと痛み出す。
「あー、ほら。もう、いいから」
先生は口元を隠していた教科書を、華乃たちを追い払うように動かした。
隠れていた口を、きゅっと結んでいる。
胃が、キリキリと痛む。
先生の、そんな表情は見たくなかった。
のどの奥が熱くなった。目の奥も熱い。
ダメだ。ここに立っていることが耐えられない。
わたしは急いで女子トイレに駆け込んだ。
一番奥の個室。
勢いよくスライドさせた鍵がガシャンと大きな音を立てた。
「……はぁっ、……はぁっ、」
ひとりになれば息苦しさから解放されるかと思ったのに、うまく息ができない。
苦しい。熱い。握りつぶされたみたいに痛い。
知らなくてもいいことを知ってしまったショックと、どこか怒りにも似た感情が涙を生む。
「……っ、……ぅ、」
これじゃあ、まるで華乃だ。
失恋して、トイレで泣いている華乃みたいだ。
こぼれ落ちる涙を拭うたび、眼鏡のフレームが上下に小さく動く。煩わしい、とでも言うのか。
黒くふちどられた世界。
先生を中心に広がった世界を切り取るためのフレームが、今は邪魔な存在でしかない。