誰かのことを想うって、こんなにもエネルギーを必要とするものなのか。
 だとしたら。華乃って、わたしが思っていた以上にタフな人間だ。
『新しい恋でもみつけるか』
 今まで何度も聞いたセリフ。
 わたしはそのセリフを、簡単には口にできそうにない。

 未開封のオレンジジュース。
 おもちゃのクラシックカー8種。
 体育祭で使ったメガホン。
 集合写真。

 先生に関するものは増えたけれど、わたしはまだこの場所で足踏み状態。
 ペットボトルに印字されている賞味期限に、一日、また一日と近づくたび、妙に焦っている自分に気づく。
 その日付が、先生に向けている感情を終わらせなければいけない期限のように思えて。


 昼休み。藤木くんと付き合うのは時間の問題だ、と華乃が言う。
「ふぅん。あ、そう」
 わたしの素っ気ない返事も、いつものことだからと気にしていない。
 もしふたりが付き合うことになったなら、メガホンの、あの恋に効くというおまじないもバカにはできない。なんて。
 もしかしたら。そんな、わたしと先生のちょっとした展開を、正直に言うと一ミリくらいは考えたりしたけど。
 そんなバカみたいなことあるわけない、ってすぐに消し去った。

「じゃあ、前回の復習ね」
 授業が始まってすぐ、先生がプリントを配る。
 捲り上げた袖からのぞく先生の日焼けした腕が、数日前の体育祭を思い出させる。
 先生と言葉を交わすこと。一緒に写真を撮ってもらうこと。
 立てた目標も、なんとなくぼんやりしたもので終わってしまった。
 もう少し頑張れたはず、と思ったり。じゅうぶんなんじゃないか、と思ってみたり。
 華乃と比べたら、ずいぶん中途半端なわたし。そう思ったすぐあとで、華乃と比べるもんじゃないと自分で自分を慰めた。