「返してよ。まだ飲んでるんだから」
「じゃあ、それ見せて」
 華乃からパックのりんごジュースを奪い返すと、今度は読んでいた雑誌を奪われた。
「ちょっと。なにすんの、」
「だって、ショウくんが」
「ショウくんが?」
「あやのんのこと、かわいいって言ってたの。だからね、あたしもあやのんみたいにしようかなぁ、と思って」
 華乃が胸まで伸びた髪を手ぐしで整える。
「そっ…、それはダメ!」
「えーっ、なんでよぅ」
「……だって、」
 あやのんは、わたしが毎月購入している雑誌の専属モデル。わたしと同じ高校一年生。
 人気急上昇中なのは、わたしと同じ黒髪のショートボブにしてから。っていうのは冗談で。
 わたしと同じ、と言ってしまったのは、あやのんに対して失礼だった。
 本当のところは、わたしがあやのんのマネをしたのだ。

「和葉だってさ、好きな人ができたらわかるよ。その人の理想に近づきたい、って気持ちが」
 ふいっと窓の外に視線を移した華乃。
 その視線の先には、雲を浮かべた青い空。青い空と言うよりは、その先の、なにか。
 遥か遠くを見つめ、ショウくんとやらを思い浮かべていることだろう。
 だらしなく緩むその表情を見て、気づかれないように小さく息を吐き出した。
 この表情が曇る日も、そう遠くはないだろうな。
 そう考えると、なんだかちょっぴり不憫に思えた。
 華乃の恋愛って、ふわふわと風に身を任せるしかできない風船みたいで。
 ふわふわ。ふわふわ、と。
 その行き着く先を、わたしは想像することができない。
 華乃自身はどうなのだろう。どう思っているのだろう。