「さっきの和葉、ほんと笑っちゃったよ」
 メガホンをポンポン叩いて笑う華乃。
「もー、いいってば」
 自分の出る競技を全て終えたわたしと華乃は、早速、華乃のお目当の男の子の元へと向かう。
 五組だから、……先生のクラス。
 ドキドキはもちろんしてるけど、今なら言えそうな気がする。さっきの、ハードルを跳んだときみたいに勢いよく、ぴょん、って。そんな感じで。
「和葉!はやく、はやく」
 先を歩く華乃が手招きをする。
 急かされたわたしが慌てて左足を一歩前に出したとき、ほどけたスニーカーの紐をもう片方の足で踏んでしまっていた。
「ちょっと待って」
 その場にしゃがんで紐を結び直すわたしを置いて、華乃はサッサと先に行ってしまう。
「もー、」
 ついでだから右足の紐も結び直そうと、紐に手をかけたとき。
「ぎゃはははは」
「あははははは」
「きゃーははは」
 なんだか耳障りに感じる笑い声を響かせ、数名の女子生徒がわたしの横を通り過ぎていった。
 靴紐を結び直して華乃の姿を探すと、両手と両膝を地面につけたまま動かない華乃を見つけた。

「なにしてんの、」
 はしゃぎすぎだよ。どうせ、いつものようにぴょんぴょん跳ねて、足がもつれたかなにかで転んだんでしょ。
 でも、華乃は地面を見つめたまま、
「………やられた」
 そう言った。
「……え?」
 やられた、ってなにを。
「足、引っかけられた」
「……え?嘘でしょ、」
「嘘じゃないよ」
 まさか、そんなこと。
 ………あ。もしかして。
 あの耳障りな笑い声。わたしの横を通り過ぎていった女子生徒たち。
「顔、見た?わたしがひとこと言ってくる」
「大丈夫」
「でも、」
「あいつら、今日が初めてだから。だけど、次
やったら許さない」
 華乃のことをよく思っていない人間がいることは、なんとなく知っていた。男好きだとか、そういう類のこと。
 だからって、こんなのおかしい。
「とりあえず、立てる?」
 華乃の腕を掴み、立ち上がるのを手伝った。
 華乃の両膝は擦りむけて、うっすらと血が滲んでいた。