『和葉の、あやのんに対する感情は、もう恋なんじゃないかと思うの』
 だとしたら。先生に対する感情は、なに?
 華乃のバカ。考え出したら、また眠れなくなるじゃない。
 いいかげん、スッキリしたいのに。苦しいだけの「好き」は、いやなのに。

「写真、一緒に撮ってくれるかなぁ」
 メガホンをぎゅっと抱きしめた華乃が、遠い目をして言う。
 誰が見ても、恋をしてるとわかる表情。素直で、ありのままの。好きって気持ちを隠したりしない。
 ちょっとだけ、うらやましいと思った。
「わたしも、……撮りたい」
 華乃の耳に届かないくらい、小さな声で。
 先生が運命の人だったら、なんて。そんなこと、望んだりしないから。
 今のこの感情を、なにか、かたちにして残しておきたい。そんな勇気が欲しい。


 体育祭当日の空は、綺麗な青。
 わたしの心臓は、目が覚めてからずっとドキドキが止まらない。
 今日の目標。先生と言葉を交わすこと。
 誰かにとってはなんてことないことでも、わたしにとっては大きな一歩。
 それが上手くいったら。一緒に写真を撮ってもらおう。
 この感情が、恋でも。憧れだったとしても。


「とりあえず今日は、一緒に写真を撮ることを目標にしてるから」
 めずらしくツインテールにしてきた華乃がメイクの最終チェックに入った。
 賑やかな教室の中、鼻息を荒くしているのは華乃だけではない。
「見て!おそろいなの」
 彼氏とお揃いのリストバンドを自慢する子。
「リレーで1位だったら付き合って、とか。
ヤバくない?」
 告白されたことを自慢する子もいる。
 今までなら、そういう子たちをどこか冷ややかな目で見てきた。
 だけど、今日は。みんな頑張れ、って。一緒に頑張ろう、って。そう思える自分がいる。
 もうすぐ始まる開会式。
「正々堂々と、全力で挑むことを誓います!」
 そんな選手宣誓を、みんなはどんな気持ちで聞くのだろう。