チラリと見た先生は、大きな口を開けて、ははは、と笑ってる。
「二階堂は、髪が焼けてるな。もう少し暗くしてこいよ」
 先生の笑顔を見たとたん、心臓が、どくんどくんと反応する。
 おまけに、目を細めたままの先生と目が合ってしまったものだから、心臓の動きは余計に激しいものになる。
「……おぉ、篠田か。誰かと思ったら。眼鏡だと雰囲気かわるもんだな」
「………ぁ、」
 カァッと熱くなる頬。
 なんて言えば。なんて返せば。
「そこの三人。スカートの丈、おかしくないか?式の前までに直しなさい」
 返す言葉を考えているうちに、先生の視線はもう他の生徒に移っていた。
 またもや自己嫌悪に陥る。これじゃあ、またモヤモヤしてしまう。
 なんだか厄介なところに迷い込んだ気分。
 ゴールが見えなくて、ただひたすら歩きまわらなくちゃいけないような、そんな感じ。


「のど渇いた」
 登校してすぐ、購買の自販機でパックのオレンジジュースを買った。
 思わぬタイミングで会ってしまった。
 思わぬ言葉を掛けられてしまった。
 そんな緊張感から、のどはカラカラに渇いていた。
「最近、和葉って、オレンジジュースばっかり飲んでるよね」
 わたしに付き合ってオレンジジュースを買った華乃が言った。
「……そんなことないよ、」と言ったものの、実際はオレンジジュースばかり。
「教室行こう。先生来ちゃうし」
「あ、ちょっと待ってよ。和葉、」
 なんとなく、手に取ってしまう。
 先生がくれたオレンジジュースよりも美味しいものを見つけたら、先生に教えてあげよう、と。
 そんなことを考えて。
 いつになるか、わからないし。見つけたとしても、教える勇気があるのかどうかもわからない。
「体育館、暑いかな……」
「暑いよ、絶対。また無駄に汗かいちゃうよ」