「ショウくんは、運命の人じゃなかった、ってことで。さっさと次に進むとします」
わたしの顔を見るなり、華乃が真面目な顔をして言った。
あぁ。だから、黒髪から茶髪にしたわけか。
「どこかにいないかなー」
駅のホームで辺りをキョロキョロと見回す。
朝から夏を引きずる暑さの中、華乃は相変わらず元気だ。
そういうわたしも、久しぶりの登校に昨日からソワソワしていた。
先生に会える。そう思って。
だって、考えないようにしていても、机の上のオレンジジュースとおもちゃの車を目にすれば、いやでも思い出してしまう。
あの日から、頭の片隅に先生がいる。
きっと、ありがとうの言葉も、すみませんって言葉も言えずにいるからだ。だから、気になってしまうんだ。
先生と顔を合わせたら、ちゃんと言おう。それで、スッキリしてしまおう。
面倒なことはサッサと片付けたほうがいい。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございまーす」
「はい、おはよう」
「はよ、ございます」
「おはよう。シャツ、きちんと着ることー」
「………ぁ、」
数メートル先。校門に立つ先生の姿に気づき、心臓が動きを速めた。
いや。今じゃ、ないんだけど。
会いたかったけど、今じゃない。
「ねぇ。倉田せんせ、日焼けしてない?」
隣を歩く華乃が先生を指さしてそう言った。
「………あ。ほんと、だ」
よく見れば、華乃が言ったように先生の肌はほんのり焼けていた。
「おはようございまーす。先生、日焼けしたね。
夏休み、楽しめた?」
「はっ、華乃…っ、」
華乃のそういうところ、ほんと凄いと思う。
わたしじゃ、そんなこと言えない。絶対、ムリ。