「お父さんっ。これ、どうしたの?」
 テーブルに置いてあったパッケージに入ったおもちゃの車をすくい上げる。
「ん?あぁ、それ。お茶を買ったらついてきた。
おまけだよ」
「そうなの?」
「なんだ。そんなものに興味があるのか?」
「………そういうわけじゃ、」
 帰宅した父親が持ち帰ってきたのは、ペットボトルのお茶についてきた、おもちゃの車。
 パッケージには「クラシックカー全8種」とある。
「欲しいならあげるよ」
「うん」
 父親は腕時計を外しながら、女子高生の流行にはついていけないなぁ、と苦笑いする。
「べつに、流行ってるわけじゃないけど」
 ただ。はっきりとは憶えていないけど、色もかたちもこんな感じだったから。
 多分、先生の車にあったのと同じ。
 おもちゃの車を持って自分の部屋に戻ったわたしは、父親からの思わぬお土産に、少しばかりはしゃいでしまった。
 なんだかドキドキが止まらない。

 高校生になってはじめての夏休み。
 いとこのお姉ちゃんがバッグをプレゼントしてくれた。
 友達と買い物に行って、あやのん愛用のコスメを買った。
 プールは日焼けが怖くて遠慮したけど。
 何年かぶりに家族旅行をして。
 欲しかった洋服が30%オフになってて、おねだりしたら買ってもらえた。
 視力が低下したから、メガネを作った。前に、雑誌であやのんがしてたメガネと同じようなデザイン。
 華乃がうちに泊まりにきた。
 彼氏のショウくんと「もう、ダメかもしれない」と言って。ニ泊三日、しゃべるだけしゃべって帰っていった。
 小説も何冊か読んだし、見逃したドラマやレンタルしてた映画も観た。
 課題は予定通りに終わらせたし。
 おもちゃの車は全種類揃えてしまった。
 先生からもらったオレンジジュースは、今も飲まずに机の隅に置いてある。
 
 長い長い休みが終わる。