ヒナちゃんとは高校も違うし、中学の頃だって常に行動を共にしていたわけじゃないから、よくわからないけど。
「そういえば。華乃って、またオトコがかわったらしいね」
「あ……、うん。そうみたい」
 なんだろう。
 ヒナちゃんて、「オトコ」なんて言い方をするような子だったっけ。そんな、ちょっとした違和感。
 黒いアイラインも、大きなイヤリングだってそうだ。わたしの知ってるヒナちゃんとは、なんだか少し違って見えた。

「じゃあね。また今度、遊ぼ。華乃にも言っておいてね」
「うん。わかった」
 少し離れた場所で待つ彼氏のもとへ向かうヒナちゃんに小さく手を振った。
『和葉だってさ、好きな人ができたらわかるよ。その人の理想に近づきたい、って気持ちが』
 ふと、華乃の言葉を思い出した。
 ヒナちゃんも、そうだったりするのかな。
 自分の中で何かが揺れた。動いたような気がした。ソワソワと落ち着かない。

「………夏、だ」
 図書館から一歩外に出れば、じわじわと滲む汗。
 太陽の熱。生ぬるい風。蝉のこえ。青い空に浮かぶ、ふわふわの雲。
 なにかが起こりそうな期待と、どこか、焦りにも似た感覚に戸惑ってしまう。
「………あ、」
 信号待ちの一台の車に目を奪われた。
 深い艶やかなダークブルーの車は、先生の車とよく似ている。
 でも、乗っているのは先生じゃなかった。
「……夏、だからだ」

 白いシャツ。
 白いソックスと、黒のサンダル。
 ゆっくり走る車。
 タイトルはわからないけれど、耳にしたことのある洋楽。
 ダッシュボードに置かれたおもちゃの車。
 ドリンクホルダーの、オレンジジュース。

 思い出すのは、あの日のこと。