数日後、各教科の答案用紙の返却がはじまった。
「げっ。サイアク」
「思ってたより良かったかも」
なんて。教室はお決まりのように騒がしくなる。
そんな中、わたしは自分の名前が呼ばれるのを静かに待っていた。
点数がどうだとか、その心配はもちろんあるのだけど、先生に送ってもらった日から先生と顔を合わせるのはこれがはじめてだったから。
ありがとうございましたと、すみませんでしたを、もう一度ちゃんと言おう。
そのことで頭がいっぱいで、朝からずっと緊張していた。
「篠田ー、」
どくん、と跳ねた心臓。
のろのろと立ち上がり、重たい脚を引きずるように教壇を目指した。
「ギリギリセーフ、ってとこかな」
差し出された答案用紙に視線を置いたままのわたし。
この前はありがとうございました。
そう口にすればいい。そう言って頭を下げたらいい。
頭ではわかっているのに、わたしは黙って答案用紙を受け取ることしかできなかった。
先生の顔を見ることもせずに。
「はい、静かにー。あ、ほらそこ。ぐちゃぐちゃにしない。ちゃんと確認しろよ」
先生が教卓に広げた問題用紙に視線を落とす。
「まずは、クラスの平均点」
四分の一ほどが空欄だったわたしの答案用紙に赤く記された点数は、当然のことながら平均点には届いていない。
『ギリギリセーフ、ってとこかな』
補習は免れた、ってことだろう。それはそれで、ほっとしたけど。でも。
きちんとお礼を言えなかった。
そっちのほうが悔やまれる。
「ここは過去完了進行形となるから、下線部の動詞playは、had been playing に変えなくちゃいけない」
時折、まくり上げた白いワイシャツの袖を気にしながら解説する先生。
わたしは自己嫌悪に陥りながらも、空欄だったその場所に正解を書き込んでいく。
授業が終わったら言おう。
そんなことを考えながら。