「いい加減、帰りたいんですけど」
学校の女子トイレ。閉ざされた扉を叩きはじめてから既に五分が経過している。
「うっ……、ぐすっ……、」
ガラガラガラガラガラ。
「ねぇ、」
「ひっ、……く、……うぅ」
ガラガラガラガラガラ。
「わたし、帰りたいんだけど」
「うーっ…、ぐすっ……、」
ガラガラガラガラガラ。
一緒に帰るはずだった友達の姿が見当たらず、学校中の女子トイレを探してみたら。案の定、これだもの。
「はぁぁぁぁぁ」と、大きなため息をひとつしたわたし。
仕方ない。あと五分、待つとしよう。
「あー、スッキリした!」
閉ざされていた扉が開いたと思ったら、大きく伸びをする華乃が姿を現した。
「コンビニ寄っていい?のど渇いちゃって」
手を洗いながら目の前の鏡に映る自分の顔をチェックする彼女。さっきまでトイレにこもって泣いていた子とは思えない。
「あ。和葉も何か飲む?付き合ってもらっちゃったし、おごるよー」
目が赤いという以外は、いつもと何ら変わりない様子で廊下をぴょんぴょんと弾むように歩く。
二階堂華乃。
彼女のことを「恋多き女」と言う人がいる。
それがいい意味で使われているのか、それとも悪い意味で使われているのか。イマイチよくわからないけど。
ただひとつ言えることは、
「いくら恋愛経験が豊富だとはいえ、この先も、華乃を崇拝する日がやってくることはないだろう」
ということだけ。