今日はよく晴れていた。

 最近は雪の日もへってきて、太陽があたるところはほとんど土や草木がしっかりと見えていた。
 ふつうの靴で歩くのが、なんだかうれしい。

「こんにちは」
 よろず屋に入ると、スライムさんがいない。

「いらっしゃいませ!」
「うわっ」

 ものかげから、スライムさんが笑いながら私を見ていた。

「スライムさん、おどかしたな」
「ふっふっふ、しりませんでしたか? ぼくは、おどかすたいぷの、すらいむですよ!」
「なにそれ、もう!」

 スライムさんは、ぴょん、とカウンターの上に逃げた。
「それで、どんなごようですか!」
「ええと、今日は、薬草を」

 私はカウンターの中の薬草を見た。
 その横。

「なにこれ」
「まめです」
「そうだよね」

 お皿に積まれた豆があった。
 おうどいろで、うすい皮がやぶれて中が見えているものもあった。

「料理に使う豆?」
「このままでも、たべられます! もう、ねつがくわえられていますので、ぽりぽりと! たべてください」

「どんな効果がある豆なの?」
「おいしいです!」
「えっと、そうじゃなくて、動きが速くなったりはしないの?」
「えいむさん? まめをたべて、そんなことがあるわけないじゃないですか!」
 スライムさんが笑う。

 でも、このお店にあるものは、そんなのばっかりだと思うんだけど。

「ですが、たべるだけじゃないんです! たいせつなこうかがあります」
「どんな?」
「まものを、おいはらうこうかがあります!」

 スライムさんはぴょん、とその場でとんだ。

「まめをまくと、まものをおいはらう、という、いいつたえがあるそうです」
「知らなかった」
「まめをまきながら、あることをいうと、まものがこなくなります」
「なんていうの?」
「それは、みんなのじゆうです!」
「自由なの?」
「そうです。じゆうにいいながら、まめをまきます」
「へえ」
「やってみますか?」
「いいの?」
「はい!」

 私は、小皿にのった豆をわたされた。
 スライムさんは、頭をちょっとだけへこませて、上に豆をのせている。

「どこにまくの?」
「どこでもいいんです」
「自由な風習だね」
「そうです!」
「えっと、じゃあ……」

 私は豆をつまんだ。
 そこで考える。

「スライムさん、これ、食べられるんだよね?」
「そうですよ」
「でも、そのへんにまいちゃったら、食べられないよね?」
「そうですねえ……。えいせいてきな、かんてんでは、そうですね」
「別の観点では?」
「すごくおなかがすいたら、こまかいことは、いっていられません!」
「なるほど」

 私たちは、大きなお盆を用意した。
 その上に、とびはねないよう、そうっ、と豆をまく。

「まものー、くるなー」
 スライムさんが言う。
「まものー、くるなー」
 私もまねして言う。

「えいむさん。これは、じゆうなふうしゅうです。まねは、いけません」
「はい、すみません。スライム先生」
「よろしい」

「まものー、くるなー」
「えっと、じゃあ……。へいわー、こいー」
「お、いいですね、えいむさん!」
「そう?」
「いいです! まもの、くるな、というだけでなく、へいわ、こい、というはっそうが、すばらしいです!」
「ありがとうございます、スライム先生」
「よろしい」

「まものー、くるなー」

「へいわー、こいー」

「まものー、くるなー」

「へいわー、こいー」

 私はふと思った。
「スライムさん」
「なんですか?」
「魔物が来るなって言ってるけど、スライムさんはだいじょうぶなの?」
「……そうですねえ、ぼくも、まものの、はしくれですね」


 スライムさんは、しばらく考えて、言った。
「だいじょうぶです!」
「そっか!」
 そんな気がしたよ!