メディアの人たちが、カメラに向かって興奮ぎみに喋っている。
「本日は、鬼神の一族と天狗の一族が本格的に衝突します。両者はこれまで衝突を繰り返してきましたが、申請を経て全面戦争となるのは、なんと十年以上ぶり。雨宮星夜が当主となってからは初のことです」
「雨宮星夜は全面戦争には否定的だとずっと言われてきましたが、遂に決意したのですね」
「粛清はよくしていたのですよ。鬼神族の者に怪我をさせた天狗族には同じように怪我をさせる、とかね。ですがなかなか全面戦争には踏み切りませんでしたね」
別のメディアの人たちもしゃべっている。
「これでやっと彼らの争いが終わるんですかね。まったく、電車を遅延させたり街を破壊したり、いいことないですよ」
「どうでしょうかね。鬼神も天狗も強いですから」
「一日も早く平穏な毎日が戻ってくることを望みます。我々人間にとっては、そのための全面戦争ですね」
ぴょんぴょん跳ねて、こんなことを言うメディアの人も……。
「昔から、火事と喧嘩は江戸の花、と言います! あやかしの争いも、見ているぶんにはとっても興奮しますよね。本日『ゆーつぶ』の私の公式チャンネルでは、現代の江戸の花、鬼神と天狗の争いを余すところなく実況していきます! みんな大好き、イケメン鬼神の雨宮星夜と、美人天狗の飛空永久花も、たーっぷり映しちゃいます!」
よくテレビやゆーつぶで流れているあやかし同士の争いの動画って、こうやって出来ていくのだろうけれど。
……鬼神のこと、天狗のこと、なにより星夜の気持ちを知ったいまでは、平穏な気持ちではいられなかった。
星夜は、鬼神族のみなさんは、いつもこんな好奇の視線に晒され続けているんだな――。
当事者になって、はじめてわかる……。
鉄の掟ができるわけも、少しだけ理解できたような気がした。
吾妻橋の西側。鬼神族の待機のための駐車場。
暗がりに、黄見さんは車を停めた。
「あたくしはここで、待機することになっておりますので。本日、歌子様とともに行動するのはこれまで。……午後五時ちょうどに、開始の合図の鐘が鳴ります。そうなれば争いの開始。あやかし同士の争いは、治外法権です。命を落とすも深手を負うも、自己責任。人間たちは救急搬送こそ手伝ってくれますが、人間たちの法は、あやかしを救ってはくれません」
黄見さんは、運転席に座ったまま、こちらを見る。
晩秋の深い影が、その美しい顔に落ちていた。
「歌子様。貴女様は人間としての身分もお持ちになる御方ですが、争いには鬼神族の者として参加されること、お忘れなきよう。……犬に変身できる貴女様です。後に、人間でしたと言い訳も効きませんでしょう」
心配してくれている、とわかった。
「ご武運を」
争いの開始を告げるチャイムが鳴る。
鬼神たちと天狗たちの勇ましい叫び声が竜巻のように満ちる。
私は、自らの手で車のドアを開け――出て行く勢いに乗せて犬に変身し、宝剣を口にくわえて、まっしぐらに、吾妻橋を駆けていった。
「あっ! 犬、犬が紛れ込んでます! 白い犬です!」
どこかのメディアのひとが指をさしても、私はとにかく走っていく。
「首輪をしてるぞ、一般人の飼い犬か?」
「確保しろ!」
警察のひとたちが追いかけてくる速度より、私が駆けるほうが速かった。
「いや……剣のようなものを口にくわえている。もしや、あやかしでは?」
……勘のいいひともいるけれど。
私はかまわず――突き進む。
「本日は、鬼神の一族と天狗の一族が本格的に衝突します。両者はこれまで衝突を繰り返してきましたが、申請を経て全面戦争となるのは、なんと十年以上ぶり。雨宮星夜が当主となってからは初のことです」
「雨宮星夜は全面戦争には否定的だとずっと言われてきましたが、遂に決意したのですね」
「粛清はよくしていたのですよ。鬼神族の者に怪我をさせた天狗族には同じように怪我をさせる、とかね。ですがなかなか全面戦争には踏み切りませんでしたね」
別のメディアの人たちもしゃべっている。
「これでやっと彼らの争いが終わるんですかね。まったく、電車を遅延させたり街を破壊したり、いいことないですよ」
「どうでしょうかね。鬼神も天狗も強いですから」
「一日も早く平穏な毎日が戻ってくることを望みます。我々人間にとっては、そのための全面戦争ですね」
ぴょんぴょん跳ねて、こんなことを言うメディアの人も……。
「昔から、火事と喧嘩は江戸の花、と言います! あやかしの争いも、見ているぶんにはとっても興奮しますよね。本日『ゆーつぶ』の私の公式チャンネルでは、現代の江戸の花、鬼神と天狗の争いを余すところなく実況していきます! みんな大好き、イケメン鬼神の雨宮星夜と、美人天狗の飛空永久花も、たーっぷり映しちゃいます!」
よくテレビやゆーつぶで流れているあやかし同士の争いの動画って、こうやって出来ていくのだろうけれど。
……鬼神のこと、天狗のこと、なにより星夜の気持ちを知ったいまでは、平穏な気持ちではいられなかった。
星夜は、鬼神族のみなさんは、いつもこんな好奇の視線に晒され続けているんだな――。
当事者になって、はじめてわかる……。
鉄の掟ができるわけも、少しだけ理解できたような気がした。
吾妻橋の西側。鬼神族の待機のための駐車場。
暗がりに、黄見さんは車を停めた。
「あたくしはここで、待機することになっておりますので。本日、歌子様とともに行動するのはこれまで。……午後五時ちょうどに、開始の合図の鐘が鳴ります。そうなれば争いの開始。あやかし同士の争いは、治外法権です。命を落とすも深手を負うも、自己責任。人間たちは救急搬送こそ手伝ってくれますが、人間たちの法は、あやかしを救ってはくれません」
黄見さんは、運転席に座ったまま、こちらを見る。
晩秋の深い影が、その美しい顔に落ちていた。
「歌子様。貴女様は人間としての身分もお持ちになる御方ですが、争いには鬼神族の者として参加されること、お忘れなきよう。……犬に変身できる貴女様です。後に、人間でしたと言い訳も効きませんでしょう」
心配してくれている、とわかった。
「ご武運を」
争いの開始を告げるチャイムが鳴る。
鬼神たちと天狗たちの勇ましい叫び声が竜巻のように満ちる。
私は、自らの手で車のドアを開け――出て行く勢いに乗せて犬に変身し、宝剣を口にくわえて、まっしぐらに、吾妻橋を駆けていった。
「あっ! 犬、犬が紛れ込んでます! 白い犬です!」
どこかのメディアのひとが指をさしても、私はとにかく走っていく。
「首輪をしてるぞ、一般人の飼い犬か?」
「確保しろ!」
警察のひとたちが追いかけてくる速度より、私が駆けるほうが速かった。
「いや……剣のようなものを口にくわえている。もしや、あやかしでは?」
……勘のいいひともいるけれど。
私はかまわず――突き進む。