翌日。
 私は、学校に行った。

 星夜は心配してくれたけれど、私は学校に行きたかった。
 犬の身体で学校に通うのにも、慣れたい。

 自分の犬の身体を、いまなら受け入れられそうな気がするから……。

 星夜がいっぱい元気づけてくれたあと、船を降りて。
 学院に向かい。
 夕樹と合流して、廊下を歩いて教室へ向かう。

 首輪はつけたままだけど、校内では、わざわざリードをつけたりはしない。
 獣の姿の学生なんて珍しくもないからだ。

 教室では、相変わらずみんな私を無視していたけれど、犬の姿の私にちらり――と注目が集まったのも、確かだった。
 特に視線を感じたのは、氷子さんと山華さんと……。
 そして、まだ話したこともない天狗の子たちだった。

 私はかまわず、授業で使うタブレットの操作に慣れることに集中した。
 これは授業の補助用のタブレットで、私のように獣の姿の学生や、唐傘の学生、幽霊の学生など、必要な学生には配られる。

 私の席の高さは普段通りだけれど、椅子の上には座りやすいように犬用のソファを置いてもらっている。
 自分で席によじのぼって、おすわりをして、前足でタブレットを操作するのだ。
 電源を消したりつけたり、アプリを起動したり、という大きな動作はアイコンを大きく設定してあるから、肉球でもできる。文字を書くときには、ペンをくわえる。

 これで最低限、みんなと一緒に授業を受けられるはずだった。

 そうやって補助タブレットを使っていて、気がついたことがある。
 意外と……犬の身体でも、思ったよりは、思い通りに操作ができる。
 あまり細かい動きはやっぱりできないけれど……。
 肉球で画面をタッチするのも、口でペンをくわえるのも、どうやら慣れだったんだと気がついた。

 今日の午前の授業が始まる。一時間目は国語、二時間目は数学。
 さすがに、まったく普段通りというわけにはいかなかったけれど、先生の質問に答えたりノートをとったり、思っていたよりは上手にできたと思う。

 グループディスカッションも、鳴いたり、首を傾げたりしていたら、意外とどうにかなった。
 鳴き声で、肯定や否定を使い分けることができる……。
 発見だ。

 ……結構、わかってもらえるもんなんだな、って。
 犬と人間が心を通わせられるというのは――本当なのかもしれない。

 三時間目は音楽で、音楽室へ移動した。
 音楽室はやたらに遠い場所にあって、行くのが面倒だけれど……。
 合奏では私のためにタンバリンが用意されていて、みんなと同じように合奏に参加できた。

 そして、四時間目――お昼の前の最後の授業がやってきた。
 四時間目は、体育。

 体育は……タブレットを使いこなすのとはまた別の能力が求められそうで、緊張するけど……。
 昨日のドッグランの感触を思い出す。
 私も走ったりボールを追いかけたり、できるはず。人間の身体と比べないで……いまできることを、精いっぱいやろう。

 そう思いながら、夕樹と一緒に体育館へ向かっていると――。

 巨大な、爆発音のような音が聞こえた。

 右の耳がぴくりと動く。犬としての、鋭い聴覚。
 ……この音。
 体育館のあたりだ。

 まさか、……まさかそんなこと、と思うけれど。
 体育館で――爆発か何かが起きた?