幽玄学院に到着すると、星夜は校内に造った事務所へ。
 私は教室へ向かった。

 幽玄学院の校舎は、レトロな魅力に満ちていた。
 大正時代に建てられた校舎は、赤レンガ造りの外壁と、重厚な木製の扉が印象的。窓は大きく、格子の入ったガラスが日光を柔らかく反射している。長い廊下には昔ながらのガス灯風のランプが今も使われていて、昼間でもどこか温かみのある淡い光に包まれていた。

 だが、それだけではない。教室に入ると、壁に備えられたスマートボードや最新型のパソコンが整然と並んでいる。どこかアンティークなデザインの机と椅子が置かれた教室に、最新技術が溶け込んでいるのだ。

 レトロな魅力と、最新設備。
 この融合が、豪華さを一層引き立てていた。
 
 朝のホームルーム前に、黒板の前で自己紹介。

「えっと……はじめまして。叶屋歌子と申します」

 すごい緊張する……。

 だって、新しいクラスメイトたちは、あやかしばかり。
 人間っぽい人が半分くらいで、他にも狐や狸、唐傘やおばけの姿をしたひとなど、バラエティに富んでいる。

 頬杖をついたり、ふわふわ浮いたり、みなそれぞれで。
 でもみんな、冷たい目線でこっちを見ている気がする……。

 特に、廊下側の席に固まっている二人の女の子と一人の男の子は、ひそひそ話をしながらこっちを睨みつけていた。

「みなさんみたいに、すごいあやかしじゃなくて……ただの一般人で……えっと、こんな私が幽玄学院に入っていいのか、わからなかったんですけど……」
「叶屋さんは呪い持ちなのよね」

 担任の先生の一言で、クラスメイトたちは一斉に、へえ、という反応をした。
 ぎこちない自己紹介を追えると、先生の指示で、最前列の夕樹の隣の席に座る。

 私を睨みつけていた二人の女の子と一人の男の子は、天狗だから、気にしなくていいと夕樹が後でこっそり教えてくれた。

「女子の天狗が(りゅう)(すい)、男子の天狗が(れい)。あいつら、いつも鬼神の僕を目の敵にしているんだ。そのせいで歌子は巻き添えを食ってるだけだと思う。ごめんね、気にしなくて大丈夫だから」

 気にはなったけど……夕樹が、そう言ってくれるなら。
 あやかし同士も色々あることは、私も充分わかっているから……。

 そうして、幽玄学院での新生活が始まった。

 久しぶりの学生生活は、懐かしいのにすごく新鮮だった。
 席について授業を受けて……教室移動をして……。
 意外と、人間の学校と変わらない日常風景だった。
 まあ、時間割に「族別演習」とか「特殊能力」とかいった科目がある点は違ったけど……。何をやるんだろう?

 予習をした範囲をいま授業ではやっていて、少しでも予習しておいてよかった、とつくづく思ったのだった。

 星夜もちょくちょく様子を見に来てくれるし、夕樹がずっとそばにいてくれるから、心強い。
 気になるのは、夕樹以外のクラスメイトと全然話せていないことだけど……。
 すこしずつ、話していければいいかな。

 後で振り返れば、このときの私の思いは、あまりにも楽観的すぎたのだけれど――。