ゴソゴソと物音がして、ドアがそっと開いた。
マジが帰ってきたらしい。
マジはこっそり部屋に入って、ベットに置かれた自分の服を取り出して眺めている。

「マジ、少し聞いて欲しい話がある。」

「なんじゃ。面白い話であれば聞くぞ」

面白い話かどうか聞かれると、なんとも言えない。
どちらかと言うと面白くないと思う。
そして、私は話し始めた。

「昔、さっきの彼みたいな生活をしていたことがあるの。毎日、盗賊ごっことか言って、スラム街の子供たちで町に来る商人を襲っていたの。」

過去の記憶がありありも蘇る。
ナイフで抵抗されたこともあった。
私達がナイフを使って脅すこともあったけれど。

「商人達は食料をたんまりと溜め込んでいたわ。でも、それも次第に少なくなった。多分、私たちの存在が知られるようになったのね。
それでも、娯楽はなかったけれど、楽しかったわ。
それでも、たとえ商人が来たとしてもパン切れ一枚とか。」

「それだけでどうやってスラム街の子供たちの腹が満たされると思う?」と尋ねてみた。
「無理じゃろうな」とマジは服を眺めて言った。
私の話はほとんど耳を通り抜けているのだろう。
それでも私は続けた。

「沢山食べ物を手に入れるために私達は襲い続けた。生きるために。
そんなことを続けていたら、ある日、保安隊が私たちのねぐらにやってきたの。
私たちは為す術なく捕まったわ。
そこからは、もう……とにかく凄かった。」

毎日棒で殴られて、拷問ばかりだった。
子供だからって容赦なんてしてはくれなかった。
でも、幸いなことに食べ物にはありつけた。
たとえ犬の餌に等しいようなものだとしても食べれるならなんでもよかった。
腹を壊すなんてことは無かったし、雑草を食べるよりも、美味しく感じた。

「私達が自由になった頃、その頃にはもう私たちのねぐらはボロボロになっていたわ。
後で聞いた話によると、私たちが捕まった後、治安隊によって壊されたらしい。
最初は団結していたスラムの子供たちだったけど、次第にばらばらになって、残っていたのは数人だけだった。」

私が話している間、マジは変わらず服を着て見たり魔改造していた。
その方が私は気楽に思えた。
真面目に聞かれると、気恥ずかしくなる。

「とにかく、また以前と同じような生活を始めたの。
襲って盗んでを繰り返していたら、また保安隊が現れた。
でも、今回は前回と同じ結果にはならなかった。
私たちの圧勝だったわ。
いつの間にか腕が上達していたみたい。
治安隊が撤退して、その後すぐに男がやってきたの。」

純粋な瞳に、少し伸びてたばね慣れた毛。
身長に合わない大きな剣を腰に提げて、男は呑気に鼻歌交じりにスキップをしながら来た。
絶好の獲物だと話し合ったのを覚えている。
そして、私達は一斉に男の隙を伺って襲いかかった。

「挑んでみたら、私達はボロポロに負けたの。
見事な程にね。
男は汗ひとつかいていなかった。
"流石にこれだけの人数を一気に相手にするとは思わなかった。棟梁は誰か教えて欲しい。是非ともスカウトしたい”とか言い出したの。
私達は呆気にとられて、敵意なんて無くなったわ。
棟梁は私だったから私が名乗り出たら、何故かよく分からない間に仲間にされた。」

今思うと、あの時の私の苛立ち様はは凄まじかった。
勝手に連れ回されるし、話を聞かないし、訓練に付き合わさせられるしで、私は毎日疲労困憊だった。
付き合いに対する支払いは、食べ物で払ってもらっていたので、最低限の生活はできたが。
一方、仲間たちは私抜きで、統率のない状態のまま盗賊を続けたからか直ぐに全滅してしまった。
私は幸いと言えばいいのか、助かってしまった。
一人ぼっちになってしまった私を彼は色々なところに連れ回した。
たとえ悪い噂をされたとしても、平気な顔をして話しかけてくる。
私はいつの間にか男と親しくなっていた。

「本当に迷惑なやつだった。」

「それでも良い奴だったのじゃろう。お前さんは楽しそうに話しているからな」

私は思わず笑ってしまった。
確かにそうなのかもしれない。
今ではもう過去の話だが、はっきりと覚えている。
昔盗賊ごっこをしていた仲間たちの顔は一部だけしか思い出せないのに、あいつの表情は全て覚えている自信がある。
笑った時に目尻にシワができるところとか、嘘をつくと右下を見ているところとか。
自分でも引いてしまう程だ。

「そう言えば、襲撃者の彼は近くまで送ってきたぞ。色々考えて居ったようじゃから、あの調子じゃとその内行動を起こすじゃろうな」

「あっそう」

私は興味なさげな振りをして、布団で身体を包んだ。
今日は気持ちよく寝れる気がした。