「……畏まりました。では、調査して分かり次第、報告致します」
「ええ、頼みましたわ。報告は向かいの宿に頼みます。二階を借りているので、宿を借りている人物に用があると言えば分かるはずですわ。」
「そうですか」と微笑む。
見事な程に上っ面だけの表情ね。
顔がひきつっている。
それもそのはずだ。
情報屋とは、報酬次第で機密情報まで漁ってくれるまさに情報のエキスパート。
どの情報屋を選ぶかで情報の質が変わってくるし、情報屋の得意分野で使い分ける必要もある。
よくあるのが、情報屋から情報を買ったはいいが、別の依頼者に情報屋が買収され、誰がどの情報をいつ買ったのかという情報が漏洩されることだ。
つまり、ハイリスクハイリターン。
そんな貴重な情報屋が、誰かの領域に足を踏み込まなければならない。
自分の地位が相手の地位よりも下に見られている。
庶民からすれば、貴族はそのような奴らの集まりだと見限っているだろう。
しかし、1度でも手厚いもてなしを受ければ、自分の地位を理解することになる。
何度も貴族並みの扱いを受けたような奴らが、果たして自分が足を運ばなければならないという待遇に耐えられるのか。
答えは、否だ。
きっと何かしら手を打ってくる。
私はにこやかに笑ってその場を去った。
そして、洋服店で服を何着か買った。
ちょうど変装用に欲しかったのだ。
普段着としても使えるなら、何着でも持っていて損は無い。
両手に買った服を持ち、今度こそ宿に戻ってきた。
「大荷物じゃの。ワシが見張り番をしている間に楽しんできたようじゃな」
扉を開けるなり、怒っているマジが立っていた。
「これはちゃんと必要だから買ってきたのよ。こっちは、貴方のね。」
マジの分をベットの上に置く。
そして、マジと交代するように捕虜の襲撃者の前に立った。
興奮気味にモゴモゴと口を動かして唸っている。
なんだか可哀想に思えてきた。
襲撃しただけなのに手首を切り落とすのはやりすぎたかもしれない。
頭が冷えてきたのか、そんなことを考えていた。
「ねえ、貴方。私を襲ったのはどうして?誰かに命令されたの?」
襲撃者はモゴモゴと言うだけで、何を言っているのか分からない。
ここでやっと、私は猿轡をつけたままだと気付いた。
これでは話しにくくて、話したくとも話せないだろう。
猿轡を取ると、襲撃者は口を開いた。
「どうか!どうか!見逃してください!俺には腹を空かせているダチが沢山いるんだ!みんな待ってるんだ。裕福なお前達には分からないだろうが…どうしても食べ物が必要なんだ」
襲撃者はペラペラと語った。
食べ物が少なく、毎日争って、ついには、身を売り出す者もいる。
そんなヤツらを食わせてやるために、自分たちは依頼を受けたり、金持を襲って金品を盗んでいるのだと。
襲撃者はまだ成人すらしていない子供だった。
声や高い背丈で誤魔化して、大人だと偽り、詐欺まがいのことや犯罪を犯すしか無かった。
「どうするかの。ワシは見逃してやってもいいと思うが…お主次第じゃな」
マジは、彼の話を聞いて、同情してやっているようだ。
魔族のくせに人間らしいことを言う。
マジは私の方をチラリとみている。
私に全部任せるらしい。
「貴方、聞く限りスラム街の出身よね。今更なんだけど、貴族を襲撃することはやめた方がいいわ。」
「…しないと……しないと生きていけないんだ!だから!」
だから、襲って奪う。
きっと彼はそう言おうとしたのだろう。
私は態とらしく彼の言葉を遮って言った。
「そうね。そうしないと生きていけない。だからってそんなことしていると、お尋ね者になるわよ。きっと中途半端な所で治安隊に捕まる。そしたら、残された子はどうなるの?
貴方がいなければ生きていけないんでしょう?
その子たちを無責任に見捨てるに等しいことをしようとしているのよ。」
私の言葉に彼は言葉を詰まらせた。
「空腹でいちばん辛いのは、仲間が争うこと。
乞食でも何でもして、手に入れた一切れのパン。
それを食べたいけれど、仲間にも食べさせてあげたい。どう分けようかと悩む。
でもね、一切れのパンで満たされる空腹ではないの。
一口食べては、もっと欲しくなってしまう。
そうしてそれを目撃されれば、一気に仲間だろうとなんだろうと争ってしまうのよ。 たとえ先程まで親友だったとしてもね。」
そんなことを言いながら、服の下からナイフを取り出し指で器用に操る。
クルクルと回したり、ナイフに写る自分を見たりした。
彼は、下をじっと見ている。
私の言葉に思い当たる節があったのか、ずっと考えているようだった。
「…なら、どうしろって?仲間が飢え死にしていくのを黙って見ていろって言うのかよ!」
「知らないわ。どうしようと貴方の勝手よ。私に何か言われないとできないわけじゃないでしょう。」
彼は私の言葉に唖然としていた。
助け舟を出してくれるとでも思っていたのかもしれない。
もしかしたら、慈悲で金を払ってくれるかもしれないと。
しかし、現実はそんなに甘くない。
払ってもいいが、払ったところで何の解決にもならない。
彼の友人を助けたところで、その友人は金が無くなればどうなる?
もう一度同じような餓死寸前の状態になる。
私はナイフで縄を解いて、彼を自由にしてやった。
そして、私は布団に潜った。
「マジ、私は疲れた。ソイツのせいで、夜は寝れていないし。これから、寝るから。あとのことはよろしく」
そう言って、私は目を閉じた。
マジがため息をついて襲撃者の彼にヒソヒソと何か言っているのが聞こえる。
そして少しすると、彼と共に部屋を出ていった。
静かになった部屋で私は目を開いた。
"腹を好かせているダチが沢山いるんだ”。
その言葉が頭の中で響く。
最初は友達で仲良くても、最後には敵で争うようになる。
なぜなら、人間は欲望にまみれているから。
どうしようも無いほどに。
生きようとすれば、辺りの人間を蹴散らしてでも汚いものに縋り付くしかない。
最初に痛くなるのは、身体。
争う度に傷が増える。
その次に痛くなるのは心。
だんだん痛みすら感じなくなる。
最終的に何も感じないまま、行動する。
全ては生きるため。
生きるために邪魔者を排除するのだ。
「ええ、頼みましたわ。報告は向かいの宿に頼みます。二階を借りているので、宿を借りている人物に用があると言えば分かるはずですわ。」
「そうですか」と微笑む。
見事な程に上っ面だけの表情ね。
顔がひきつっている。
それもそのはずだ。
情報屋とは、報酬次第で機密情報まで漁ってくれるまさに情報のエキスパート。
どの情報屋を選ぶかで情報の質が変わってくるし、情報屋の得意分野で使い分ける必要もある。
よくあるのが、情報屋から情報を買ったはいいが、別の依頼者に情報屋が買収され、誰がどの情報をいつ買ったのかという情報が漏洩されることだ。
つまり、ハイリスクハイリターン。
そんな貴重な情報屋が、誰かの領域に足を踏み込まなければならない。
自分の地位が相手の地位よりも下に見られている。
庶民からすれば、貴族はそのような奴らの集まりだと見限っているだろう。
しかし、1度でも手厚いもてなしを受ければ、自分の地位を理解することになる。
何度も貴族並みの扱いを受けたような奴らが、果たして自分が足を運ばなければならないという待遇に耐えられるのか。
答えは、否だ。
きっと何かしら手を打ってくる。
私はにこやかに笑ってその場を去った。
そして、洋服店で服を何着か買った。
ちょうど変装用に欲しかったのだ。
普段着としても使えるなら、何着でも持っていて損は無い。
両手に買った服を持ち、今度こそ宿に戻ってきた。
「大荷物じゃの。ワシが見張り番をしている間に楽しんできたようじゃな」
扉を開けるなり、怒っているマジが立っていた。
「これはちゃんと必要だから買ってきたのよ。こっちは、貴方のね。」
マジの分をベットの上に置く。
そして、マジと交代するように捕虜の襲撃者の前に立った。
興奮気味にモゴモゴと口を動かして唸っている。
なんだか可哀想に思えてきた。
襲撃しただけなのに手首を切り落とすのはやりすぎたかもしれない。
頭が冷えてきたのか、そんなことを考えていた。
「ねえ、貴方。私を襲ったのはどうして?誰かに命令されたの?」
襲撃者はモゴモゴと言うだけで、何を言っているのか分からない。
ここでやっと、私は猿轡をつけたままだと気付いた。
これでは話しにくくて、話したくとも話せないだろう。
猿轡を取ると、襲撃者は口を開いた。
「どうか!どうか!見逃してください!俺には腹を空かせているダチが沢山いるんだ!みんな待ってるんだ。裕福なお前達には分からないだろうが…どうしても食べ物が必要なんだ」
襲撃者はペラペラと語った。
食べ物が少なく、毎日争って、ついには、身を売り出す者もいる。
そんなヤツらを食わせてやるために、自分たちは依頼を受けたり、金持を襲って金品を盗んでいるのだと。
襲撃者はまだ成人すらしていない子供だった。
声や高い背丈で誤魔化して、大人だと偽り、詐欺まがいのことや犯罪を犯すしか無かった。
「どうするかの。ワシは見逃してやってもいいと思うが…お主次第じゃな」
マジは、彼の話を聞いて、同情してやっているようだ。
魔族のくせに人間らしいことを言う。
マジは私の方をチラリとみている。
私に全部任せるらしい。
「貴方、聞く限りスラム街の出身よね。今更なんだけど、貴族を襲撃することはやめた方がいいわ。」
「…しないと……しないと生きていけないんだ!だから!」
だから、襲って奪う。
きっと彼はそう言おうとしたのだろう。
私は態とらしく彼の言葉を遮って言った。
「そうね。そうしないと生きていけない。だからってそんなことしていると、お尋ね者になるわよ。きっと中途半端な所で治安隊に捕まる。そしたら、残された子はどうなるの?
貴方がいなければ生きていけないんでしょう?
その子たちを無責任に見捨てるに等しいことをしようとしているのよ。」
私の言葉に彼は言葉を詰まらせた。
「空腹でいちばん辛いのは、仲間が争うこと。
乞食でも何でもして、手に入れた一切れのパン。
それを食べたいけれど、仲間にも食べさせてあげたい。どう分けようかと悩む。
でもね、一切れのパンで満たされる空腹ではないの。
一口食べては、もっと欲しくなってしまう。
そうしてそれを目撃されれば、一気に仲間だろうとなんだろうと争ってしまうのよ。 たとえ先程まで親友だったとしてもね。」
そんなことを言いながら、服の下からナイフを取り出し指で器用に操る。
クルクルと回したり、ナイフに写る自分を見たりした。
彼は、下をじっと見ている。
私の言葉に思い当たる節があったのか、ずっと考えているようだった。
「…なら、どうしろって?仲間が飢え死にしていくのを黙って見ていろって言うのかよ!」
「知らないわ。どうしようと貴方の勝手よ。私に何か言われないとできないわけじゃないでしょう。」
彼は私の言葉に唖然としていた。
助け舟を出してくれるとでも思っていたのかもしれない。
もしかしたら、慈悲で金を払ってくれるかもしれないと。
しかし、現実はそんなに甘くない。
払ってもいいが、払ったところで何の解決にもならない。
彼の友人を助けたところで、その友人は金が無くなればどうなる?
もう一度同じような餓死寸前の状態になる。
私はナイフで縄を解いて、彼を自由にしてやった。
そして、私は布団に潜った。
「マジ、私は疲れた。ソイツのせいで、夜は寝れていないし。これから、寝るから。あとのことはよろしく」
そう言って、私は目を閉じた。
マジがため息をついて襲撃者の彼にヒソヒソと何か言っているのが聞こえる。
そして少しすると、彼と共に部屋を出ていった。
静かになった部屋で私は目を開いた。
"腹を好かせているダチが沢山いるんだ”。
その言葉が頭の中で響く。
最初は友達で仲良くても、最後には敵で争うようになる。
なぜなら、人間は欲望にまみれているから。
どうしようも無いほどに。
生きようとすれば、辺りの人間を蹴散らしてでも汚いものに縋り付くしかない。
最初に痛くなるのは、身体。
争う度に傷が増える。
その次に痛くなるのは心。
だんだん痛みすら感じなくなる。
最終的に何も感じないまま、行動する。
全ては生きるため。
生きるために邪魔者を排除するのだ。