「聞いたか?勇者一行があの魔境を攻略したそうだ。しかも仲間たちは傷一つ負っていないらしい。」


「そりゃ凄いことだな。今回の勇者は仲間に裏切られることは無さそうだ。これで、魔王さえ倒したら俺達は魔物に怯えずに済むな。」


飲んだくれの会話を聞きながらビールを喉に流し込んだ。
ビールを飲める歳であるが、未だに好きになれずにいる。
ケイは美味しいと言っていたんだが、私は5年経っても子供舌らしい。


「あんたこの辺の冒険者じゃないだろう。気をつけなよ、この辺りは飲んだくれが多いんだ。」


優しい女主人が私にビールを渡しながら注意をしてくれる。
5年前の勇者一行の暗殺事件から見ず知らずの冒険者には冷たい人々が多いのに、変わった人だ。


「私は飲んだくれを捌けるぐらいには強いので、大丈夫です。忠告ありがとう。」


「そうかい、そうかい!お嬢ちゃん、気をつけるんだよ!」

そういうと女主人は豪快に笑いながら、カウンターに戻って行った。
そして忙しそうに料理を運んではカウンターに戻ってまた料理を運んで、店の中は人で溢れて女主人1人だけで対応するのは大変そうだ。
長居しているのも迷惑かもしれない。


「ご馳走様。美味しかったです」


「あいよ!またおいで!」


忙しそうに動き回る女主人を呼び止める訳にも行かないので、席に代金と余分にお金を置いておいた。
女主人も律儀に勘定をしたりはしないだろう。
したとしても、すでに私の姿は無い頃だ。
そうして、騒ぎになることもせず静かにお店を出たはずだった。


「おい嬢ちゃん、遊ばないか?」


何やら酷く酔っ払っている御貴族様に捕まってしまった。


「すみません、先を急いでいるので。」


やんわりと断りを入れたが、酔っ払っていて羞恥心が欠けているのか大声で「なんでだよ!」と怒鳴り散らしてきた。
めんどくさい。
これだから酔っ払いは嫌いなんだ。
先を急いでいるからって言っているのが聞こえなかったのか。
そして、多分後で酔いが抜けた頃には記憶がなくなっていて、私だけがヤキモキするパターンだ。
ちなみにケイもその部類。
姫も。
武闘家も。
僧侶も。
私も。
つまり、全員酔っ払うと面倒ということだ。
朝起きたら吐瀉物まみれなんてこともざらだった。
何より酔っ払いは五月蝿いし、何より酒臭い。


「なあ、遊ぼうぜ!」


そう言いながら力強く酔っ払い貴族は手を引いてきた。
執拗すぎて少し頭に来たが、何とか抑え込む。
店の前で騒ぎを起こすのは女主人に迷惑がかかってしまう。
女主人が親切にしてくれたから、コイツは今の所五体満足でいられるのだ。
女主人に感謝するべきである。
とりあえず従うことにした。