今日は格段と街が騒がしい。
どうやら、今日は街をあげてのお祭りらしい。
なんでも有名人がやってくるとか。
誰に聞いても有名人の招待は不明で、なんでも直前に知らされるという。
もし、隣国の重鎮であったら、きっとマナーもなっていない庶民をみて血祭り……多分有り得ないが。
そもそも潔癖なきらいがある重鎮様はパーティに勤しんでばかりで、庶民のことなんて石ころ程度にしか思わないだろう。
そんな重鎮でもない私はというと……

「すみません。串焼を2つ。」

お祭りを満喫していた。
指名手配犯といえど、私とて人間だ。
お祭りは大好きである。
まあ、人前にでるから一応はフードを被っているが。
串屋のイカつい店長から、串焼を受け取り、道の端の方で待機していたマジに手渡してやった。

「変わったものじゃな。近頃の若者はこんなものを食べるのか」

マジは初めてみたのか串焼を手でつついてから口に放り込んだ。
何度か咀嚼してから、マジはピタリと固まってしまった。
もしかすると口に合わなかったのかもしれない。
見た目はただの老人に見えても、本質は魔族だ。
人間の食べるものでは、もしかするとアレルギー的なものがあるのか。

「う……うぅ……美味い!」

そう言うと、マジは串焼を食べ切ってしまった。
素晴らしい食いっぷりに思わず笑ってしまう。
「そんなに美味しかったのね。私のもあげるわ」
そう言って差し出すと、マジはあっという間に食べてしまった。
こうしてみると魔族も人間も変わらないらしい。

「ねえ、あの子……」

ヒソヒソと周りで話しているのが耳に入った。
まさか、もうバレてしまったのか。
そう思い辺たりを見渡すと、どうやら私ではなさそうだった。
というのも、別に注目を集めている場所があった。
注目を集めているが、人だかりはできてはいない。
遠くから人々が見物しているだけだった。
関わらないのが、正解なのだが……気になる。
人間はするなと言われたら余計に首を突っ込んでしまうのだ。

「ふむ、どうやら有名人という奴が到着してみたいじゃな。」

私の隣に来たマジが髭を触りながら言った。
そう言えば、そんな話もあったか。
結局気になった私は、見物客のあいだを通り抜け最前列で見物した。

「勇者さまー!手を振って!」

見物客の誰が言った。
"勇者さま”と言った。確かに。
注目を集める団体の一人が手を振った。
スラリとした背に細身、肩にかかりそうな髪。
本当に勇者なのか疑いたくなる。
明らかに偽物に見える。
もしかしたらその辺の若者と並べれば、その辺の若者の方が勇者と言われるかもしれない。
どうしてこんな奴を選んだのか。
勇者になるのも簡単では無いはずだ。
訓練から何から何までしなければならない。
多少の筋力は付くはずなのだが……

「もやしのようじゃな。儂でも倒せそうじゃ」

いつの間にかいたマジが愉快そうに言った。

「同意ね。」

まず、実力試しだ。
私は足元の石を拾ってバレないように素早く投げつけてみた。
すると、勇者は背中をかくような素振りを見せて受け止めた。
偶然かと思った。
しかし、勇者がこちらを一瞥していたので偶然とは思えない。
勇者は仲間になにか話すとこちらに向かって歩いてきた。
不味い。
実力は問題ないと思うが、私は指名手配犯の身分。
まして魔族を連れている。
通報されでもしたら面倒だ。
こんな時に面倒そうな騒ぎでも起こしてくれる奴がいたら……

「偽物勇者!魔族なんていないクセして、何の関係もない奴を魔族扱いしやがって!兄ちゃんを返せ!母ちゃんを返せ!」

幼い声がした。
勇者に向けられていた視線が声の主に向けられる。
幼い兄弟のようだった。
ヤンチャそうな十にも見たなそうな兄と気弱そうな弟。
言葉からして何かあったことは明白だ。
勇者は方向を変えて、兄弟の前まで歩み寄った。
そして二人の前まで歩み寄ると何を考えたのか、腰にぶら下げていた剣をその場に落とした。
そうして着ていた鎧まで脱いでしまった。
観客たちは唖然とする。
当たり前のことだが、自分の弱点を晒している。
自殺行為だ。

「君の兄、ジャックはいいヤツらだった。」

と述べ、次々に兄弟の兄について話し始めた。
兄弟の兄、ジャックは元々貧困街の出身で血縁関係でなかったらしい。
二人にとって面倒見のいいジャックは本当の兄のように感じていた。
ある日、勇者制度でジャックが選ばれ、ジャックはどこかに連れていかれたらしい。
そして最初のうちは手紙が来ていたが、やがて手紙も来なくなり、帰ってくることは無かったそうだ。

「君たちには酷な話かもしれないが……ジャックは死んだ。俺を庇って。君たちの兄は本当にかっこいいやつだった。」

そう言って勇者は二人に頭を下げた。