しばらくして、涙もおさまり私は顔を上げた。
その頃にはもう、全て思い出していた。
見慣れたあの景色も違和感も全ての正体がわかってしまっていた。
あの家は、私が小さい頃ケイと過ごしていた場所。
この場所に生えるあの木は、さっき言った通り小さな頃遊んだもの。
そして、あの木は折れた。
否、折ったのだ。
私が。
そして、今もこの場所にはケイがいるのだ。
つまり、今見ているこれも夢。
全てが幻想。
そう思えると、全てが作り物の気がする。
「もう立てそうか?」
ケイが私に手を差し伸べる。
そうだった。
彼はいつもこうやって私に手を差し伸べてくれた。
きっと幼い頃の私なら手を取っていただろうが、今は大丈夫だ。
一人で立たなければならない。
「一人で立てるよ。」
私は自分で身体を起こした。
ケイは「そうか」と言って、先に歩き始めた。
私は彼の背中をただじっと見つめた。
もう、大丈夫だ。
態々、この先を思い出す必要も無い。
これからの事はずっと覚えている。
これから勇者になっていくだろうケイの背中に手を振った。
_どうか、この先で悪い仲間に出会いませんように_
叶わない願いだが、願ってもいいだろう。
願うだけなら無料だし、叶ったとしても夢の中での出来事だ。
現実になんの影響もない。
彼の背中が遠くに行って、見えないほど小さくなった。
その時、地面が揺れる。
轟音と共に熱風が地面から吹き出した。
私は屈んで揺れに耐えるが、地割れが次々と発生して私の身体は真っ暗な空間に落ちていった。