ご飯を食べ終えて、食器を水に浸しておく。
こうしたら汚れが落ちやすいと行商人が言っていたのをきいたことがある。
油が浮きやすくなるとかなんとか。
効き目があるのかどうか知らないが、少しでも楽になったらいいなと思いずっと続けている。
「レミィ、行くぞ」
背後から急に肩に手を置かれ、思わず太腿に手をやった。
確かここにアレが隠してある。
しかし、そこには何も無い。
手が空をきるだけだった。
「なんだその格好。何かの踊りか何かか?」
犯人の少年はケラケラと笑う。
驚いている私を他所に、少年は食器を水につけた。
今思えば、確かに少年の言う通りだった。
私は自然と太腿に手をやっていた。
頭では、理解しながら。
しかし、今は何を考えてこんな行動をとったのかわからない。
最近、踊り子の踊りを見た記憶もないし。
考えるだけ無駄というものなのかもしれない。
「おーい。大丈夫か?」
「問題ない……と思う。」
少年は「そうか」と言って、壁に立てかけてあった縦長の袋を手に取った。
袋の中にはかなりの重さの何かが入っているようで、少年は少しふらついていた。
「それ、持とうか」
見ていられず、声をかける。
少年は「大丈夫」と首を横に振った。
顔からヒシヒシと苦しさが伝わってくる。
強がりも程々にして欲しいものだ。
心が痛くなってくる。
私は気まずさを感じならが、彼の隣を歩いた。
フラフラ……フラフラ……フラ……
「私が持つ!」
あまりにも少年がふらつくものだから、私は耐えきれず袋をぶんどった。
その瞬間、私は1歩も歩けなくなった。
重い。
身体に似合わない物体を持とうとすること自体が無茶なのだ。
しかし、頑張れば運べないほどでもない。
少年と交代で運べばなんとかなるだろう。
ところで、今からどこへ行く予定だったか。
何となくで歩いていたが、少年が何も言わないので道を間違えていることは無さそうだが。
「そういえば、昔よくこの木で遊んだよな。木登りとかして。」
「そうだったね。確か、ケイが調子に乗って高い場所まで登って…それで……それで……」
少年が急に立ちどまり言った。
少年が言う木は、確か本当に幼いときから一緒に育ってきた木だった。
私たちと共に成長してきて、そしてこれからもどんどん大きくなるだろう。
そんなたわいの無い話をしているだけだ。
それなのに、声が震える。
上手く話せない。
私はただ思い出話がしたいだけなのに。
何故か視界がぼやけて、涙が止まらない。
少年は「大丈夫か」と近寄ってきて、私の背中を優しく撫でた。
余計に泣きたくなるじゃない。
やめて欲しいのに。
離れて欲しいのに。
何故か口にできなかった。
私は、何かを忘れている。
きっと重要な何か。
大切なもので、忘れたくない何かで、捨て去ってしまったものだ。
少年は、ぐしゃぐしゃの私の顔を覗き込んで嬉しそうに笑った。
何を笑ってるんだ。
私は訳もわからない程悲しいのに。
「何があったのか分からないけど、泣くことは悪いことじゃない。泣ける時に泣いとけ!」
私は堪えきれず声を上げて泣いてしまった。
体の力も抜けて座り込んでしまう。
何が悲しいのだろうか。
こんなにも苦しいのは何故なのか。
誰か教えて欲しい。
ケイに、変な歌を歌いながら背中を撫でられる。
私を励まそうとして歌い始めたはずなのに、最後には自分が楽しそうに歌っている。
笑わずには居られなかった。
いつも彼は周りを笑顔にさせてくれる。
本当に見ていて飽きない。