トン
なんの音だろうか。
トントン
……うるさい。
トントントントントントン
…騒がしい!!
私は叫び身体を起こした。
窓から差し込んだ朝日が私の顔を照らす。
トントンという物音は変わらず鳴り続けている。
私の声が聞こえなかったようだ。
顔を右に向けると空っぽのベッドが一つあった。
布団が綺麗に整えられている。
ベッドの主は、とっくに起きており、物音をたてて何かをしているらしい。
私はベッドから降りて、足元にあったスリッパを履いた。
そこで、何かが違うような違和感を感じた。
何かおかしい気がするが、分からない。
私は身体の隅々を触って確認してみるが、特に変わったところはなさそうだった。
何か足りないような…ちょっとした何かが…
色々考えてみたが思い当たらなかったので、音のする方へと向かっていくことにした。
建付けの悪いドアを開けると、香ばしい匂いが立ち込めていた。
テーブルの上には、肉、肉、肉。
これは、晩飯か。
今は朝のはずだが。


「おはよう。」


「…はよ…」

少年が手に包丁を持ちキッチンから顔を出した。
料理をしているのは彼らしい。
ついでに、物音の正体は彼の料理の音だと判明した。
寝室まで聞こえていた音が、少年が顔を出した時から止んでいるからだ。
力一杯包丁を振り下ろさないと、寝室まで聞こえないと思うのだが…
この少年は、馬鹿力なのか。
見た目では分からないこともあるものだ。
私は当然のようにキッチンに行き、少年の横で顔を洗った。
水が冷たい。
その間も、少年は黙々と料理を続けていた。
材料を散らかしながら。
これだけ零していると、食べる量も少なくなってしまう。
手伝おうとすると、少年は首を横に振った。



「いいよ。レミィ、取り敢えず髪を梳かすといい。」


「…分かった」


久しぶりに名前を呼ばれて、私は固まってしまった。
少年は、「どうした」と言って首を傾げている。
私は、首を横に振って、鏡台の前に行き髪を梳かした。
そして、慣れた手つきで髪を結びリボンを付けた。
ふと鏡に映る自分を見て、また違和感を感じる。
さっきから感じるこれは何なのだろう。
何か、何処か違う。


「レミィ!出来たぞ!」


少年の声だ。
何かを言っている。
……そうか。"レミィ”は私の名前だったか。
まだ名前を呼ばれて、すぐ反応することが出来ない。
むず痒い感じがする。
少年を待たせる訳には行かず、少年の元に向かうとテーブルに座っていた。
私は空いている方の席に座り、少年と朝食を食べた。
朝から胃もたれがする。