勇者一行の盗賊だけど勇者を裏切りました

「いい加減吐き出したら?もう証拠はあがってるのよ。」


机に拳が叩きつけられる。
これぐらいで私から情報を聞き出せると思っているのか。
生ぬるいな。
私なら、水責めをするだろう。
昔なら毎日のようにした。
私はチンピラたちを纏めあげるトップの立場であったから、舐められる訳にはいかなかったのだ。
情報をもらそうとする者がいるなら、即刻処分しなければならない。
それと比べると、あくびが出てきそうだ。


「何度も話しているが、私は無関係だ。」


「そんな訳ないじゃない!私はこの目で見たのよ。貴方が村長の家から出てくるのを!」


さっきから見知らぬ女性が、私を誰かと勘違いしてうるさく話しかけてくる。
因みに、私は本当に見覚えがない。
私が夢遊病にかかっているのなら別の話だが、私はそんな病気だと診断された覚えはない。
つまり、この女性は時間を無駄にしているのだ。
尊い生の時間を。
というか、私はこの時点で重大なことに気付いている。
否、気付かざるを得なかった。
私が気付いた重要なこととは…


「ちょっと聞いて!サムさん!この女はまったく情報を吐かないの!」


「…そんなことないはず!この村で最も視力が良い私がこの目で見たのよ!」


「…でも…分かった。」


この女性は、幻想を見ているらしいということだ。
幻想を現実として認識し、私は彼女にとって村長の家で何かをやらかした犯罪者なのだろう。
勿論のこと、彼女は幻想を見ていると気付いていない。
実際には、この場にはサムという人物はいない。
それどころか、彼女が村長と呼んでいる人物すらいないのだ。
この村に居るのは、私とこの女性とマジのみだ。
マジは、私が誘拐した老人で保護対象ということになっているみたいだ。
そして、保護対象のマジは私とは別のどこかに連れていかれた。
そうしてこの状況が作られている訳だが、彼女の中の私はどれだけ犯罪を犯せば済むのだろうか。
私はそれほど犯罪者顔なのか。
後で誰かに聞いてみよう。
といっても、マジしかいないのだが。


「…悔しいけど、証拠不十分で貴方を釈放するわ。嫌だけど。」


「そんなことを言っても私の無罪は変わりません。」


どれほど悔しいか彼女の言葉からひしひしと伝わってくる。
しかし、何度も言うが関係ないのだ。
よって、私に罪はない。


「なんですって!…はーい。わかったわ。今行く!サムさん後は頼んだ!」


突然、幻想に何を聞いたのか女性は私を置いて出ていってしまった。
しかし、頼れるサムさんはいないため、私はポツンと部屋に残される。
今からでも、マジを迎えに行ってもいいのだが、彼女と顔を合わせたくない。
顔を合わせてしまったら、話を合わせないといけないし、キャンキャンと威嚇されても困る。
だから、少し時間をずらして逃げることにしよう。
尊い時間を無駄にしてしまうのは勿体ないが、致し方ないことだ。
決して、眠たいから動かないのではないと念の為に言っておく。