「あっちよ!」
「こっちに行ったぞ!」
「そこの道を曲がって行ったわ!」
「こっちには来てないな。」
本当に面倒になってきた。
あれから数日経って、現在は人探しをしている。
探し人は、発見されるものの逃げ足が早く逃げられてしまうらしい。
そこで如何にも強そうな私が呼び出され、捕まえる羽目になった。
因みにマジは宿に置いてきた。
マジは先日仲間になったおじいさんのことである。
魔王軍のおじいさんから1部を抜き取ってマジである。
我ながら最高のネーミングセンスだ。
おじいさんは、私が『マジ』と呼びかけると、数秒惚けたような顔をして、「それが儂の名か」と言って微妙な顔をしていた。
気に入らなかったのかもしれないが、特に反対もなかったので決定になったのである。
正直、足でまといだった。
「私が追いかける。」
「そうか。なら、儂はここで休憩でもしているかの。」
と、マジにあっさり見送られた。
「捕まえた!!」
ようやく探し人を捕まえ、適当なとこに縛りつけてマジのところに戻る。
マジは移動はしていなかったが、机の上にティーカップが置かれていた。
「帰ったか。お勤めご苦労様じゃな。」
と、優雅に紅茶をすすりながらマジは言った。
ふつふつと私の中に怒りが湧き上がってくる。
私が頑張っている間、この爺は…
私は握り拳を作りながら、おとなしく席に着いた。
「儂は、お主が奔走している間、情報を集めておっての。これは仕事をした後の休憩じゃ。」
「…情報集め」
私が聞き返すと、マジは首を縦に振った。
そして、集めた情報を次々に話してくれた。
「最近は、勇者と名乗るものが増えているらしい。そして、村々に料理を振る舞わせて、文句を言い料金を踏み倒すそうじゃ。
そんなことが起こるものだから、村人達は旅人を警戒し、誰も村に入れないらしい。
儂らのような旅人からすると、いい迷惑じゃの。
その上、野営をしている旅人や商人を襲い金品を奪うやからまででる始末。
世の中は世知辛いの。」
マジは一通り語り終えると、紅茶をすすった。
ケイが居なくなってからというものの、世の中は魔物を恐れるのではなく、人間を恐れるようになった。
これでは、魔物がいた世の中の方がマシだったのかもしれない。