「ご馳走様でした。」



テーブルの上に二人分の支払いを置いて、席を立ち上がった。



「ここまで付き合ったんだから、もういいでしょ。また会うことがあれば会いましょう。」



「ふむ。分かった。」


おじいさんを置いて席を離れた。
店先に出ると日が私を照らして、視界が白黒に点滅する。
そのうち治るだろうと歩き始めると、隣に気配を感じた。
まさかと思い振り返るが、誰の姿もない。
その代わりに背後に気配を感じた。
後ろに振り返るとまたしても誰もいない。
そしてまた後ろに気配。
イラつきながらも振り返ると見せかけて、一点を狙って拳を振り上げた。
そうするとカエルが潰れたような声がした。


「……や…やはり只者じゃなかったようじゃな。この儂にダメージを与えるとは…」


何やら言っていたが、私は聞く気もないので足早に去っていく。


「儂はこう見えても昔は相当立派な職に着いておったんじゃ。役に立つぞ。」


おじいさんは、「どうだ?どうだ?」と何度も繰り返し聞いてくる。
おじいさんのことは大体のことなら考え方の傾向や弱点まで頭に入っているので、聞く必要は無い。
確かに魔王軍としてのおじいさんの業績は凄いものだが、どうして私に構うのか分からない。


「分かった。話だけは聞く。」


ついに私が折れた。
折らざるを得なかった。
私たちはとりあえず道の橋に寄って話すことにした。


「それで、何でしょう?あれだけしぶとく来るのは理由があったからなのでしょう。」



「理由は簡単じゃ。お主からは何となく懐かしい気配がするからの。それに楽しそうじゃし。」



そんな単純な考えでいいのだろうか。
このおじいさんが可笑しいのか、元から魔王軍がこんな適当な感じなのか…
私は「後悔しても知らないわよ」とだけ返事をして足元に転がっていた石を蹴った。



公開などする意味が無いの。(後悔なんてしないよ。)儂は己の意志に従った。それだけじゃ。」



昔の記憶が頭をよぎった。
懐かしさのあまり思わず微笑を浮かべる。
私は、今までずっと被ったままだったフードを取って、おじいさんと向かい合った。
そして、手を差し出す。



「なら、頼む。よろしく。」



おじいさんは目を見開いていたが、すぐに取り繕って握手を交わした。



「こちらこそ、よろしく頼む。」



これが魔族と勇者殺しの出会いである。