「さて、お尋ね者のお嬢ちゃん。安泰に過ごせる場所を探していると言っていたが、何処に行くか…」
「私は、同行について許可した覚えはないんだけどね。」
私は、パスタを口いっぱいに頬張った。
ソースが麺に絡みついていて、手間がかけられているのか美味い。
個人的にはクリームパスタが推しだが、ミートパスタも悪くない気がしてきた。
「私の旅に終わりはないの。だから、さっさとその辺の湖にでも帰ったら?」
「貴方のような半魔は今の時代では生きずらいよ」と続けて言うと、おじいさん_元魔王軍軍師_は目を細めて笑った。
そして「いつの世も半魔は生きずらいものじゃ。二百年近く生きてる儂が言うんじゃ、きっとこれからも変わらんよ」と言った。
二人揃ってパスタを食べている今日は、あの日から二日経った。
騎士団に包囲された事件は大陸中に報道され、連日取材が行われた。
当事者であるおじいさんはもちろん、目撃者達にもスポットが当てられ、取材陣が町中に跋扈するなんてこともあった。
取材された後には、念の為に乗客全員が治療を受けた。
ろくな手当てもせずに解放したと批判され国の評価が落ちることを回避したいという思惑が多少があると思うが、私はもうひとつの予想を提唱する。
そのひとつとは、情報漏洩の防止。
まず最初の怪しい点は、東の国の騎士団長エルム・エンハンスドがいた場所だ。
あの場所は、東の国から離れている。
問い詰めたところで遠征とかなんとか言い訳されるだろうが、態々騎士団長様が国を離れることが有り得るのだろうか。
国の防衛よりも優先することができたということが最も簡単な推測だ。
例えば、後暗い貿易とか。
「お前さん、儂が怖くないんじゃな。」
「はぁ?」
いきなり変なことを言い始めたおじいさんに思わず眉をひそめた。
チラリとおじいさんに目をやると、おじいさんはフォークを置き私をじっと見つめていた。
からかっているようには見えない。
適当に答えていい気がしたが…私は正直に話した。
「昔、似たような奴らを見たことがあるから。ソイツらと比べると、あまり怖くなかった。ただそれだけよ。」
「ふむ、儂と似たようなやつを見たのか。ご時世的に可笑しくない話じゃな。」
健気な少女を想像しているのか送られてくるのは可哀想な視線だった。
私は、何故だが視線を合わせられなくて目を逸らした。
健気どころか、血を浴びながら暴れ回っていたとは流石に言えない。
というか、言ってもいいのか。
仮にもこのおじいさんからすれば、私は仇。
もし怨みを晴らすために店の中でまた魔物化されれば困る。
刺激しないように慎重に接さなければ。
なんとも厄介な相手に絡まれたものだ。