朝。ザワザワと騒がしかった。
私は、宿の窓を開け外の様子をうかがった。
宿の前には、人が群れていて何やら叫んでいる。
その対応に宿主が駆り出されているようだった。
大変そうだな。
私は、助けてやる義理もないし、そのうち収まるだろうと窓を閉めた。



とりあえず、朝食にしよう。
そう思い立ったのは、まだ人が騒いでいるときだった。
宿の味気ない食事をとろうと注文したのはいいのだが、五分待っても来ない。
五分で連絡するのは、流石に気が短すぎたかと思い十分、二十分と待った。
しかし一向に注文したパスタは来ないし、さっきから騒ぎが大きくなっている気がする。
痺れを切らして、受付カウンターまで行くと誰もいなかった。


「誰かいませんか?」


「……すみません!少々立て込んでおりましてお待ちください!」


大声で人を呼んでみたら、外から返事が聞こえた。
外からの野次が大きすぎて、少し聞き取りずらい。
私は大人しくしてられず、少し窓を開けて外を見た。
すると、窓から何か投げ込まれた。
投げ込まれた何かは、何か白い粉を撒き散らして床に落ちた。
その瞬間、思わず咳き込んでしまった。
多分、小麦粉か何か安全な粉だろう。
とりあえず、毒ではなさそうだ。
さてものを投げられるとは、何があったのだろう。
騒ぎ声で休む所ではなくなったのか、宿に泊まっていた宿泊者と思われる人達が次々と私の横を通り過ぎてドアから顔を出した。
そして、何やら野次を飛ばしている。
そんなことを繰り返しているのだから、騒ぎも大きくなっていく一方なのだろう。
私は、流石に腹が減ってきていた。
さっきから腹の虫が騒がしくないている。
とりあえず、腹の虫を収めるためにも騒ぎを収めなければならないようだった。


「何の騒ぎだ!」


騒ぎの中でも一際大きな声が響いた。
群衆の目が声の主に一身に集まった。
この声は、見ずとも分かる。
ケイだ。
流石の騒ぎに、ケイも動かずには居られなかったのだろう。
群衆の目を浴びているケイは、近くにいた人に話を聞き、とりあえず騒ぎの中心である人物を残して人を散らせた。
散っていく人々は「ケイが来たからもう安心だな」「ケイに任せればもう大丈夫だ」と口々に言っている。
少し人任せ過ぎないかと思いつつも、話を聞くためにドアの近くまで移動した。
何やら、五六人の人々が話しているのが聞こえる。
一人はケイ、もう一人は宿主。
では、後の人は誰だ。
私は、ドア越しに進められる耳を傾ける。


「だから、コイツが犯罪者を匿ってるって聞いたんだ!」


「私も聞いたわ!だから、見つけて追い出すの!私たちは、何も悪いことをしようと思ってない!」


「なるほどな。で、その話は誰から聞いたんだ?それが嘘で宿主(この人)に迷惑がかかってしまうとは考えなかったのか?」


「それはそうだけど…でも、私はみんなの為に」



「みんなのためを思って行動してくれたのは、感謝するありがとう。でも、何も相談もなしに勝手に行動されては俺達も困るから。」


「それは…すまなかった。」


何やら噂が流れてしまっていたようだ。
確かに(犯罪者)がここに泊まっているが…
どこから足がついたんだ?
とりあえず、部屋に戻って考える必要がありそうだ。
ドアから離れたとき、私が離れたドアから顔を出して宿主に声をかける人がいた。
「ちょっとアンタ!お客様から注文が来ているんだけど!」などと言って、その場を一転させた。
宿主が慌てて宿の中に入ってくる。
ようやっと腹の虫を収められるようだ。


「こんなところに泊まっていたんだな。」


突然、私に向けて上から声が降ってきた。
思わず「ヒェッ」と声が漏れてしまったが、何事も無かったかのように取り繕い視線をあげる。
すると、ケイが私を見ていた。
いつの間にか気付かれていたらしい。