この国には勇者推薦制度というものがある。
名前の通り、勇者を推薦する制度だ。
国民から選ばれた実力者達の中から、王国騎士団や魔法師団等の推薦を受けることで、年に一人選ばれる。
そして、その人は勇者と呼ばれ、訓練を受ける。
訓練は過酷だ。
朝から晩まで寝る間なく行われる。
それを耐え抜いたものこそ真の勇者ということだ。
勇者制度を続けていると、とある御仁が言った。
「これでは、勇者と周りの戦力差が開くばかりだ。」と。
周りはこの意見に同意し、やがて勇者も1人ではなくバランスを考えた上三人ほど選ばれるようになって、できたのが今の制度である。
かくいう私も訓練を受けた。
三日ぐらい。
だって、相手が弱すぎたのだ。
それゆえ、私たちに勝てる人間はおらず、最強のパーティーと呼ばれるようになった。
「ここでいいわよね。貴方のお家は知らないの。」
なんて言ってみた。
一度招待されて行った豪華な貴族屋敷が、アスの家だ。
アスはあの家で一生を過してきた。
しかし、私の目の前にあるのは数時間前まで楽しい時間を過ごした一軒家_マリーさんの家_である。
どうしてここに来たのか、何となく分かっていた。
私が倒したのはアスという一人の人間だ。
貴族の息子ではなく、アスという一人の剣術を嗜む青年。
もしかしたら、勇者になったのかもしれない。
「アスまだ帰らないのか。見に行ってくるよ。」
「ケイ、大人しく寝ておきなさい。きっとアスちゃんが知ったら、「どうして先に寝なかったのです。貴方は早起きが苦手なんですから、少しでもじっくり寝て早く起きれるようにしてください!」なんて言われてしまうわ。」
「……確かに。まあ、起きたらアスも帰ってきてるか。おやすみ。」
「ええ、おやすみ。いい夢を見るのよ。」
ドアに耳を当てると、聞こえる二人の声。
アスを本当の家族のように心配する声が、暖かい。
私は、紅く染まった手のひらに視線を落とした。
「私は最低ね。」
二人の大切な人を奪ってしまった。
私は大悪党だ。
大悪党なんて生ぬるいかもしれない。
今更後悔してしまった。
家の中からゴソゴソと何かを漁る物音が聞こえる。
「アスちゃんも、これからお疲れで寝るだろうし。昼ごはんの準備をしてあげようかね。」
車椅子の錆びた車輪の音が、徐々に遠ざかっていく。
「すみませんでした」と扉を開けて、叫んでしまいそうになった。
本当にごめんなさい。
きっと私が謝ったら、二人は怒りながらも気持ちを抑えて慈悲の心を見せてくれるのだろう。
でも、それで私の気持ちは晴れない。
なら、恨んでもらおう。
私はその方が気持ちが楽だ。
私は、支えていたアスをドアにもたれさせた。
背もたれにしたドアにアスの血がベッタリと付着しており、私の背中にも誤魔化せないほどの血が着いているだろう。
アスは、目を閉じて穏やかに笑っていた。
「何笑ってるのよ。貴方は、殺されたのよ。もっと恨みなさいよ。私を憎んでよ。善人ぶらないで……なんでどうして、あなたたちは私をせめないのよ」
私の声が震える。
あの事件から初めて私の言葉を聞いてくれた人。
たったそれだけの人に私は涙を流せるほど、脆かったのか。
仲間がどれだけ死のうと、家族が助けを求めようと決して揺らぐことがなかったモノがこの人のために揺らいでいる。
私は、何をしたかったのか分からなくなってしまった。
名前の通り、勇者を推薦する制度だ。
国民から選ばれた実力者達の中から、王国騎士団や魔法師団等の推薦を受けることで、年に一人選ばれる。
そして、その人は勇者と呼ばれ、訓練を受ける。
訓練は過酷だ。
朝から晩まで寝る間なく行われる。
それを耐え抜いたものこそ真の勇者ということだ。
勇者制度を続けていると、とある御仁が言った。
「これでは、勇者と周りの戦力差が開くばかりだ。」と。
周りはこの意見に同意し、やがて勇者も1人ではなくバランスを考えた上三人ほど選ばれるようになって、できたのが今の制度である。
かくいう私も訓練を受けた。
三日ぐらい。
だって、相手が弱すぎたのだ。
それゆえ、私たちに勝てる人間はおらず、最強のパーティーと呼ばれるようになった。
「ここでいいわよね。貴方のお家は知らないの。」
なんて言ってみた。
一度招待されて行った豪華な貴族屋敷が、アスの家だ。
アスはあの家で一生を過してきた。
しかし、私の目の前にあるのは数時間前まで楽しい時間を過ごした一軒家_マリーさんの家_である。
どうしてここに来たのか、何となく分かっていた。
私が倒したのはアスという一人の人間だ。
貴族の息子ではなく、アスという一人の剣術を嗜む青年。
もしかしたら、勇者になったのかもしれない。
「アスまだ帰らないのか。見に行ってくるよ。」
「ケイ、大人しく寝ておきなさい。きっとアスちゃんが知ったら、「どうして先に寝なかったのです。貴方は早起きが苦手なんですから、少しでもじっくり寝て早く起きれるようにしてください!」なんて言われてしまうわ。」
「……確かに。まあ、起きたらアスも帰ってきてるか。おやすみ。」
「ええ、おやすみ。いい夢を見るのよ。」
ドアに耳を当てると、聞こえる二人の声。
アスを本当の家族のように心配する声が、暖かい。
私は、紅く染まった手のひらに視線を落とした。
「私は最低ね。」
二人の大切な人を奪ってしまった。
私は大悪党だ。
大悪党なんて生ぬるいかもしれない。
今更後悔してしまった。
家の中からゴソゴソと何かを漁る物音が聞こえる。
「アスちゃんも、これからお疲れで寝るだろうし。昼ごはんの準備をしてあげようかね。」
車椅子の錆びた車輪の音が、徐々に遠ざかっていく。
「すみませんでした」と扉を開けて、叫んでしまいそうになった。
本当にごめんなさい。
きっと私が謝ったら、二人は怒りながらも気持ちを抑えて慈悲の心を見せてくれるのだろう。
でも、それで私の気持ちは晴れない。
なら、恨んでもらおう。
私はその方が気持ちが楽だ。
私は、支えていたアスをドアにもたれさせた。
背もたれにしたドアにアスの血がベッタリと付着しており、私の背中にも誤魔化せないほどの血が着いているだろう。
アスは、目を閉じて穏やかに笑っていた。
「何笑ってるのよ。貴方は、殺されたのよ。もっと恨みなさいよ。私を憎んでよ。善人ぶらないで……なんでどうして、あなたたちは私をせめないのよ」
私の声が震える。
あの事件から初めて私の言葉を聞いてくれた人。
たったそれだけの人に私は涙を流せるほど、脆かったのか。
仲間がどれだけ死のうと、家族が助けを求めようと決して揺らぐことがなかったモノがこの人のために揺らいでいる。
私は、何をしたかったのか分からなくなってしまった。