「時間が来てしまったわけだけど、どうしようか。このまま放置されるか、トドメを刺されるか。好きな方を選ばせてあげる。」
「……トドメを刺してください。負けた相手に生かしてもらって、そのままのうのうと人生を終えるなんて私のプライドが許しません。」
アスは仰向けに倒れたまま、空を見つめる。
私の一方的な勝ち試合だったにもかかわらず、心做しかアスは満足そうにしていた。
私には迷いがあった。
ほんとうにこのままトドメを刺してしまってもいいのだろうか。
トドメを刺さずにいれたら、私は救われるだろう。
少し変わった知り合いたちとのびのび過ごせる新たな人生を手に入れられるだろうか。
いや、きっと手に入れられない。
私は過去の幻惑に惑わされ、一人狂言を演じているだけだ。
「最初から関わりなんて持たなければよかった。」
ポツリと独り言ちる。
自分でも驚くほどか細い声で、口元に近付かないと聞こえないぐらいの声量だった。
アスには聞こえたのだろうか。
チラリとアスを見ると、ただ空を見上げていた。
故意的にか偶然か分からないが、光がアスの顔を照らしてよく見えない。
「帰りたいので、さっさとトドメを刺しますか」
今度こそトドメを刺そうと、ナイフを振りかぶった。
その時、アスがボソッと呟いた。
「そんなことを言っては何も始まりませんよ。」
ナイフはアスの心臓があるであろう胸部に突き刺さった。
ゴフッとアスの口から真っ赤な鮮血が吹き出し、辺りをどんどん赤く染めていった。
私は何も言わなかった。
否、言えなかった。
どれだけ過去を呪おうと過去に戻れなどしないし、過去があるから現在はあるのだ。
分かっている。
私だって、それぐらいは分かっている。
「冥土の土産になんでも質問してください。答えてさしあげましょう。時間は貴方が息絶えるまでです。」
本当に気まぐれだった。
恐らくアスは周りに危害が加わらないように何かしらの対策をしている。
だから、私もゆっくりしていられる。
アスを信じている。
「そうですね。……では理由があるのですか。」
本題から質問してくるとは思わなかった。
道を歩いているといきなり豪速球が飛んできて顔にぶつかったような、その日の運勢を憎みたくなるような気分だ。
「あるよ。貴方は……推薦を貰いそうなぐらいだから。それだけよ。」
「……推薦ですか。確かに貰いましたね。このまま数日間生きていれば、王城に呼び出されていたでしょう。」
やっぱりねと言いながら、私はアスを背負い込んだ。
アスは抵抗しようとしたが、力は弱々しく無理やり従わせた。
アスが諦めたことを確認すると、一歩一歩と歩き始めた。
ペースはゆっくりとしかししっかりとした足取りで向かっている。
「どこに行くのですか。」
アスが尋ねた。
「帰るの。子供はもうとっくに家に帰っている時間よ。」
私はアスを支えながらまた一歩一歩と足を進めた。
「そうですか。……確かに眠たいです。」
一歩一歩。
私たちは足を止めることは無かった。
「……トドメを刺してください。負けた相手に生かしてもらって、そのままのうのうと人生を終えるなんて私のプライドが許しません。」
アスは仰向けに倒れたまま、空を見つめる。
私の一方的な勝ち試合だったにもかかわらず、心做しかアスは満足そうにしていた。
私には迷いがあった。
ほんとうにこのままトドメを刺してしまってもいいのだろうか。
トドメを刺さずにいれたら、私は救われるだろう。
少し変わった知り合いたちとのびのび過ごせる新たな人生を手に入れられるだろうか。
いや、きっと手に入れられない。
私は過去の幻惑に惑わされ、一人狂言を演じているだけだ。
「最初から関わりなんて持たなければよかった。」
ポツリと独り言ちる。
自分でも驚くほどか細い声で、口元に近付かないと聞こえないぐらいの声量だった。
アスには聞こえたのだろうか。
チラリとアスを見ると、ただ空を見上げていた。
故意的にか偶然か分からないが、光がアスの顔を照らしてよく見えない。
「帰りたいので、さっさとトドメを刺しますか」
今度こそトドメを刺そうと、ナイフを振りかぶった。
その時、アスがボソッと呟いた。
「そんなことを言っては何も始まりませんよ。」
ナイフはアスの心臓があるであろう胸部に突き刺さった。
ゴフッとアスの口から真っ赤な鮮血が吹き出し、辺りをどんどん赤く染めていった。
私は何も言わなかった。
否、言えなかった。
どれだけ過去を呪おうと過去に戻れなどしないし、過去があるから現在はあるのだ。
分かっている。
私だって、それぐらいは分かっている。
「冥土の土産になんでも質問してください。答えてさしあげましょう。時間は貴方が息絶えるまでです。」
本当に気まぐれだった。
恐らくアスは周りに危害が加わらないように何かしらの対策をしている。
だから、私もゆっくりしていられる。
アスを信じている。
「そうですね。……では理由があるのですか。」
本題から質問してくるとは思わなかった。
道を歩いているといきなり豪速球が飛んできて顔にぶつかったような、その日の運勢を憎みたくなるような気分だ。
「あるよ。貴方は……推薦を貰いそうなぐらいだから。それだけよ。」
「……推薦ですか。確かに貰いましたね。このまま数日間生きていれば、王城に呼び出されていたでしょう。」
やっぱりねと言いながら、私はアスを背負い込んだ。
アスは抵抗しようとしたが、力は弱々しく無理やり従わせた。
アスが諦めたことを確認すると、一歩一歩と歩き始めた。
ペースはゆっくりとしかししっかりとした足取りで向かっている。
「どこに行くのですか。」
アスが尋ねた。
「帰るの。子供はもうとっくに家に帰っている時間よ。」
私はアスを支えながらまた一歩一歩と足を進めた。
「そうですか。……確かに眠たいです。」
一歩一歩。
私たちは足を止めることは無かった。