結論から言うと私たちは朝まで戦った。
正確に言うと人々が仕事に出るギリギリの時間までだ。
戦闘といえば聞こえがいいが、実際は私の一方的な勝ち試合だった。
何せ私は犯罪者とはいえ、元は勇者パーティに所属し魔物と戦っていたのだ。
優秀とはいっても一般人の枠内に収まっているアスに負けたとあれば、面目ない。


「結局、負けですか。私も結構強い自信があったのですが、勇者パーティには及びませんね。」


アスが血にまみれてピクリとも動かない自身の腕を見つめながらボソッと言った。
私はアスを横目に見つつ、何も言わなかった。
私は励まそうとしたのだが、アスがそれを拒んだ。


「結局努力をしても勇者には及ばない。私たちは所詮選ばれなかった人間なんですね。」


「ケイだって最初は剣を振るのだってやっとだったわ。振りかざす度にこっちに剣が飛ぶことだってざらにあった。勇者なんていわれているけど、そんな器じゃないよ。」


アスは私の方に目をやって優しく微笑んだ。
私がなにかおかしなことを言ったのか。
それとも己の死を悟って頭がおかしくなってしまったのか。


「決して貴方のことを笑っているのではありませんよ。ただ、あまりにも貴方が優しい顔をするから。」



アスにいわれて己の顔をぺたぺた触ってみた。
しかし、いつもの仏頂面のままで口角もピクリとも動かかず優しいなんてお世辞でも言えない。


「殺り合いをしたあとでなんですが、貴方は勇者ケイが大好きなんですね。」


「は」


私は呆然としてしまった。
当たり前だ。
今まで裏切り者だ、犯罪者だと言われ続け、影では最初から不仲だったとか犬猿の仲だったと言われのない事を言われ続けていた。
勇者がいなくなった今もそれは変わらない。
でも、私がケイのことを"大切”だと言ったのは久しぶりだった気がする。
胸の奥が暖かくなって、目が熱くなった。


「そうだね。大好きだよ。今も昔もそれだけは変わっていないわ。」


私は素直にケイに話した。
ケイは私の話を拒絶することなく聞いてくれた。
たまに頷いたり、質問をしたりして。
こういう相手がもっと早く居てくれればよかったのに。
私は気を引き締めて、アスの目の前でナイフを心臓の真上に構えた。


「こんな時になんですが、すごく楽しかったです。私以外に勇者パーティしかもファンだった盗賊のレミィに殺される人なんていないですよ。」


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。でも、私のファンなんてなっても得なんてないわよ。」


「それでも良かったんです。ただ、表に立たずひっそりと仲間の手助けをして、完璧に仕事をこなすそんな貴方に憧れただけですよ。」


アスは力なく笑った。
もう時間だと悟っているのだろうか。
その時、朝を知らせる鐘が鳴った。
時間が来てしまった。