なんて楽しい時間だったのだろう。
私は久しぶりに誰かと時間を共有し心ゆくままに話すことが出来た。
楽しい時間は一瞬で過ぎ、辛い現実のみを残していく。


「ケイ様。お元気そうで何よりです。」



「えっと…リリアさん。さきほどはみぐるしいすがたをおみせしてしまい……なあ、敬語外して話そう。」



片言で話したかと思えばケイは、面倒くさそうにため息を着いて言葉を崩した。
私は首を縦に振って了承の意を伝えた。
するとケイの片言な話し方に文句を付け足そうにしていたマリーさんが、目を吊り上げて説教をしようとした。
しかし、アスが首を横に振りマリーさんを鎮めた。
マリーさんは、不服そうにしていたが私の前だからと怒りを鎮める。



「それで、なんでここにリリアがいるんだ。ばあちゃんと知り合いだったなんてことはないだろうし。もしかして……」



ケイがチラリとアスの方を見た。
アスは何かを察したのか、「そんな訳ないだろ」と話して私に目線を向ける。
これは同じようにして欲しいということでいいのだろうか。
私はケイに「何もありませんよ」と話して、紅茶を啜る。
私達の反応で脈ナシだとわかったのか、ケイは残念そうに椅子にもたれかかった。



「アス様もケイ様も異性からの人気は凄まじいと思います。外見やお顔も整っていらっしゃいますし。」



「確かにモテる。だが、アスはそういう感情があまり分からないらしくてな。」



「そういう相手がいても仕方ないだろう。仕事上、構ってあげられないかもしれませんし。」


ケイの言い分は最もだ。
確かにアスやケイの仕事上、夜中も出かけて家にいないなんてことも頻繁にあるだろう。
夫が殆ど家にいない中過ごすのは、妻が可哀想だ。
それなら独り身でいる方が楽だろう。



「誰かと過ごすのは大変ですけど、その分幸せなんですよ。中々意見が合わないなんてこともありますけどね。」


「独り身のばあちゃんがそれを言えるのか。亀の甲より年の功だな。」


その瞬間ケイの言葉によって、その場の空気が凍った。
凍らせた本人は何も分かっていない顔で、茶菓子をつまんでいる。
その一方で私とアスは、額から冷や汗が止まらなかった。
このままでは場の空気が最悪になると私は、話を変えようと口を開いた。
しかし、言葉を発する前にケイが悲鳴を上げた。
ケイの頭に拳骨が落ちたのだ。三発も。
ケイの頭には3段アイスが出来上がっている。


「そうね。ケイ、あなたには女性の逆鱗に触れないようにする方法を教えてあげるわ。1つ目は年齢について何も言わないことよ。」



私は悟った。
ケイは学ばない人間だと。
そして、マリーを怒らせてはいけない。