「マリーさん、急に訪ねたのにも関わらず応じて頂きありがとうございました。」



「いいえ。アスちゃん気にしなくていいのよ。貴方はケイちゃんのお友達だからね。」



あれから変装魔法をかけ直して、私たちはティータイムを楽しんでいる。
時間としては5分も経っていないだろう。
お婆さん(マリーさん)が道具の準備、アスはお茶の準備をして私は魔法をかけ直すというそれぞれの時間を過ごしていた。
手分けをしたからかすぐに準備が終わり、私たちはすぐにお茶を楽しむことが出来た。
ここでひとつわかったことがある。
それは、マリーさんは見た目だけでなく魔法の実力も桁外れだ。
魔法を使ってどこからともなくティーポットやお菓子を取り出したときはすごく驚いた。
なんでも"家庭用魔法”というものがあり、それを極めるとできるようになるらしい。
家庭用魔法はそもそも魔法を使う人にとって初歩中の初歩で、この魔法で適性を分ける時もあるらしい。
ちなみに私は家庭用魔法と相性が悪いらしくほとんど制御出来ない。
出来ても広範囲に魔法の効果が飛び散ってしまい、あまり使い勝手は良くない。
とりあえず魔法の言葉忘れて、純粋に楽しもう。



「マリーさんは、アス様とどのようなお関係なのですか。もしよろしければ聞かせてください。」



「私とアスちゃんはね……私は、孫のような感じだと思っているわ。実際は、私の孫の友達なんだけどね。」



「お友達というのは、リリアさんも知っている方です。この前、私と一緒にいたケイです。」



確かにマリーさんをじっくり見つめていると目元の部分が微かに似ているかもしれない。
顔全体を見るとマリーさんは少し大人しい感じがするが、ケイはじっとしていられない子供のような顔をしている。
多分だが部分的に見ていけば、まだまだ似ているところは見つかるのだろう。
マイペースな性格のマリーさんは、私がマリーさんの顔を見つめていることも気にせずにアスとケイの昔話をしていた。
アスは先程から百面相をしていて見ている私からすると楽しいので止めはしない。


「アスちゃんはね、昔から勇者ごっこをするケイに付き合わされていたの。」



「マリーさん。それは言わないお約束でしたよね。」



「私も最近物忘れが多くてね。そんな約束したかしら。」



態とらしくとぼけるマリーさんをアスが呆れた顔で耳を塞いだ。
それでもマリーさんは話を止めることをせずにしばらく話し、私は適当に相槌を打った。
そして、アスが加減を見て耳から手を離そうとするとアスにとって恥ずかしい昔話を始めた。
そんなことを繰り返していると、突然扉が吹き飛んだ。



「ばあちゃん。帰ってきた……ってお客さんがいるのか。」



吹き飛んだ扉を踏み倒し顔を出したのは、話題に上がっていたケイだった。
ケイは迷うことなく私たちの方に歩み寄ってきた。



「ケイ。貴方はお客さんの前でぐらい取り繕えないの。」



「お客さんっていっても、いつも来るのはジジイとかババアばっかりだろ。」



ケイがマリーさんと喧嘩腰の言い合いをしていると、ふとケイと目が合った。
ケイは話をやめて私の方を見て腕を組んで唸り始めた。
急に腕を組んで唸られると私も困る。
どうしようかと思考をめぐらせていると、アスが力一杯にケイの頭に拳骨を落とした。
瞬時にケイは杭のように床に突き刺さり、頭だけが出ている状態になってしまった。



「いつも止めてくれてありがとうね、アスちゃん。助かるわ。」




「いえいえ。昔からケイの世話を焼いていますから、今となっては習慣になっていますよ。」




止めるって何を止めるのだろうか。
私は何も言えなくなってしまった。
流石に勇者パーティにも人を埋めたりするヤツはいなかった。
殆ど成人男性と変わらないケイを拳1つで埋めてしまうアスはありえない馬鹿力だ。
馬鹿力とは呼ぶのもおこがましいほどの力。
その力を武器に上手く乗せれば、自分よりも何十倍も身体が大きい人にも勝ててしまうだろう。
細い身体の何処からそんな力が出るのだろう。


「あの。ケイ様は大丈夫なんでしょうか。殆ど地中に埋まっていらっしゃいますけど……」




「大丈夫、大丈夫。よくあることなのよ。」



色々突っ込みたくなってしまったが、これが一般常識なのかもしれない。
私がズレていただけなのだ。
さも当然のようにジャンプで抜け出す人も歪んでしまった扉を力で戻している人も。
全て夢だと思った方が楽だ。