「さて、アスちゃんから話は聞いているわ。占術の才能があるかもしれないんですってね。同業者は大歓迎よ。」
「そうおっしゃられても……私にはそう思えません。」
「そうね。占術は最初にコツを掴むことが大切なの。」
お婆さんは、そこから占術について長々と語り出した。
占術とは、簡単に言うと昔から行われてきた占いのことだ。
たまに、僧侶のように回復魔法を使ったりしたという記録があったはず。
占い方には種類があるが主に水晶を使ったものが一般的とされている。
目の前にいるお婆さんは、そういった道具を使わず身体の一部と直接触れ合うことで色々なものを見るらしい。
若い頃は名を馳せた占術使いで、知らない人はいないほどだったそうだ。
「手を出して。貴方に呪いがかけられていないか探ってみるわ。」
ことの成行を、聞いていたお婆さんは私の予感を呪いと判断したらしい。
とりあえず安全なものかどうかチェックし解けそうなら解いてみるらしい。
私は断る気もなかったので、素直に手を差し出した。
お婆さんの手に私のが包まれ、熱を持つ。
するとお婆さんが眉をピクリと動かした。
「貴方、何かの魔法にかかっているわ。なにかの魔法をかけたりかけられたりした記憶はあるかしら。」
変装魔法だ。
思い当たる節しか無かった。
私は、悩むふりをして首を横に振った。
お婆さんは「そう。」と、それ以上踏み込んでくることは無かった。
私はふうと一息着いたその時だった。
お婆さんが爆弾発言をしたのだ。
「危険そうじゃないから、試しに解いてみるわね。」
私は慌てて止めようとしたが、ここで止めれば先程の嘘を告白するようなものだ。
そう思いとどまって、何事もないかのように頷いた。
内心ハラハラしていて、変な汗をかいている。
「じゃあ解くわね。」
「よろしくお願いします。」
「すぐ終わるから安心してね。いくわよ」
頬を優しい風が撫でる。
視界の端で靡いた髪がだんだん元の色に戻り始めるのが見えた。
アスは開いた口が塞がらないといった様子だ。
それもそうだろう。
先程までとは違う私の姿。
それは大犯罪者にそっくり否、そのものだったのだから。
職業上私の顔を何度も見てきただろう。
そして、きっと私を生きているうちに見るなんて思わなかっただろう。
頬を撫でていた風がやんでいく。
それと平行して、靡いていた髪が落ち着きを取り戻した。
「リリアさん、その姿は……」
「アス様、お婆さん……私は先程嘘をつきました。私は自ら魔法にかかっていたのです。」
ここからは私のアドリブしかない。
矛盾することを一言でも言えば私は豚箱行きだ。
渾身の演技で、この場を切り抜けよう。
「あら、どうしてそんな嘘をついたのかしら。正直に言っていただければ、止めたのに。」
「私は、こんな容姿ですから小さい頃からそっくりだということで英雄や大犯罪者にされたりすることがありました。それゆえ、魔法で隠していたのです。」
そう私は英雄として勇者パーティに加わり、悪役として去った。
何も嘘をついていない。
ここでの私は可哀想な無罪の女の子。
私は盗賊レミィを恨んでいる。
そういう設定だ。
「それはごめんなさいね。今まで苦労したでしょう。ここでは貴方を脅したりするような奴は来ないわ。」
「……いいえ。こちらこそすみません。」
お婆さんに優しく抱きしめられた。
私は大人しくしていたが、内心は罪悪感でいっぱいだった。
ごめんなさい、ごめんなさいと何度も言った。
私の演技に騙されてお婆さんは親切にしてくれている。
捨てたはずの心の奥がキリキリと痛む気がした。