「お越しくださり、ありがとうございます。この度案内致します執事のセバスチャンでございます。」
「皐月と申しますわ。こちらは、旦那の吹雪。」
「吹雪です。よろしくお願いします、セバスチャン。」
私は目の前の光景が信じられない。
最初は貴族の屋敷であるから庭や門に驚いたが、今はそれの比じゃないほど驚いている。
目の前には、私よりも小柄な少年が執事と名乗ったのだ。
歳は、だいたい十か少し足りないぐらいだ。
これは若作りと言い訳は苦しいだろう。
「何をしているの。ほら、挨拶なさい。」
「あっ。娘のリリアですわ。先日はすみません。」
私は少し気の弱そうな女の子を演じた。
今のところは気が弱いだけだが、後でヒステリックになる予定だ。
練習無し挑んだからか少し緊張したが、人前で気が弱くなることは社交界ではよくある事だ。
だから、セバスチャンも大して気にしなかった。
「では、応接室までご案内致します。」
セバスチャンは、何やら女給たちに合図して指示をし、私達を応接室まで案内した。
応接室に入ると改めてアスの身分の高さが感じられた。
赤いカーペットに、私たちを照らす金色のシャンデリア。窓から見える裏庭の手入れされた木々。
ありとあらゆるところにお金をかける余裕があるみたいだ。
「すぐアス様がいらっしゃると思いますので、お待ちください。」
「案内ありがとう。アス様とやらには、ゆっくり来てもらっていいよ。私たちも満喫させてもらおう。」
「こら、皐月。無礼を働かないで。……すみません。いつもこんな感じなので、ゆっくりさせていただきます。」
「構いませんよ。ごゆっくり堪能なさってください。」
セバスチャンが部屋を出ていき、応接室には私たちだけとなった。
3人だけになったことを確認すると、私は立ち上がり窓をぶん殴った。
背後から二人の声にならない悲鳴が聞こえる。
しかし、窓は割れることなく私の手は跳ね返された。
多分衝撃緩和の魔法と物理反射の魔法。
「ちょっと。何やってるの。」
「ここなら魔法の研究も出来るだろうと思って。衝撃緩和ぐらいはかけてるでしょ。貴族なんだし。」
「なるほど。ってなるわけないよ。その推測が外れてたら、とんでもない借金を抱える羽目になったんだよ。」
確かに貴族たちの屋敷につかわれているガラスは高い。
さらにそれだけでなく、魔法付与がされているとなれば価値は10倍近くまではね上がる。
私は、吹雪基シャンに捕まって、椅子に座らされた。
少し勢いの強い座り方だったが、椅子は軋むことなく微動打にしなかった。
多分椅子にも窓と同じように衝撃緩和の魔法がかかってる。
もしかすると、それよりも上位の魔法かもしれない。
私はこんな研究をしているが、魔法に対して興味がある訳では無い。
ただ教養として、多少のことは身につけないといけないと思うからだ。