「よーし! これだけ飛べるようになれば、あとは水晶玉チャレンジするだけだな! 残り三ヶ月。やるぞー!」
ヒカリは水晶玉チャレンジのスタート地点である河原で、気合いを入れた。
「まずは、水晶玉を探さないとな」
ヒカリはほうきに乗り森の中へ入っていく。
「おっと! 危ない! ぶつかるとこだった。このスピードで飛んでてもぶつかりそうになるのに、エドはどんだけすごいのよ。……でも、私もできるようにならなきゃ! いてっ!」
ヒカリは森の中で飛ぶ難しさを痛感した。
それからヒカリは、三日ほどかけて水晶玉の位置を確認し、それを示したマップを作ってみた。
「えっと、水晶玉の場所は把握した。紙にも書いてみたけど……。とにかくすごい広範囲。それに、木の上にあったり根元にあったり。こりゃ大変だな」
ヒカリはマップを見ながらつぶやく。最短ルートはわかったのだが、もっと短時間でゴールできる方法はないかと考える。だが、少し考えてみても、なかなか思い浮かばない。
「とにかく繰り返そう! 何度も何度もやってみて、コースを体に染み込ませなきゃ!」
ヒカリは力強くそう言って水晶玉チャレンジを開始した。
それから、ヒカリは何度も何度も挑戦した。雨の日も、風の日も。体中たくさんぶつけたり擦りむいたりしても、その度に必ず立ち上がり挑戦し続けてきた。魔女になりたいという強い思いがあるからこそ、どれだけ体が痛くても諦めるわけにはいかない。
だが、一向にタイムは縮まらないまま、期限の一週間前になってしまった。この日もヒカリは何時間もの間、挑戦し続けていた。
「……くそっ。…………あと、一週間しかないのにタイムが二十分すら切れない。…………くそっ! もう一回! ……いっ」
ヒカリはとにかく歯がゆかった。そして、ほうきを握っている自分の手を見ると、その部分が血まみれになっていることに気づいた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……」
ヒカリは自分の血まみれになった手を見ながら呼吸を整える。すると、急に雨が降り始めた。タイムが縮まらない歯がゆさ、体中の痛み、それをあざ笑うかのような雨、びしょ濡れになる体。ヒカリの気持ちはだんだんと暗くなっていく。
「…………くそっ!」
ヒカリはその言葉を発することで、自分の嫌な気持ちを発散したかった。だが、発散されない。
「諦めるのか?」
エドは落ち着いた口調で問いかける。ヒカリは言葉が出ない。
「なぁ。…………あと一ヶ月くらい期限を延ばすか?」
エドはそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて、一気に頭に血がのぼった。
「バカにしないで!」
ヒカリはエドを睨みつけながら怒鳴った。エドはじっとヒカリを見ていた。
「たしかに、こんだけ、こんだけ、頑張っても、全然タイムも縮まらないよ! こんなに、こんなに、こんなに、頑張ったのに! 全身痛くてボロボロだし! 本当に苦しい状態だと思うけどさ! それでも! 期限の延長なんてしないよ! ここで甘えが出たら魔女試験なんて受かりっこないから! ちゃんと覚悟したんだよ! 自分の人生懸けてでも魔女になるって!」
ヒカリは下を向き、自分の中にある感情を力強く吐き出した。少しだけ沈黙が流れた後、ヒカリはゆっくりとエドの顔を見た。
「それに、エドが設定した期限を守れないんじゃ、そもそも魔女になれっこないしね。だから……。自分が本気でなりたいものだから! 痛くても、辛くても、悔しくても、絶対に諦めない!」
ヒカリは真剣な表情でエドに伝えた。エドは何も言わなかった。
「もう一回やる!」
ヒカリはそう言って修行を再開した。
それから、何度か練習した後、ヒカリは木に寄りかかりながら座って休憩していた。気がつくと雨も止み、気持ちの良い青空が見えてきた。
「はぁ……。くそっ」
ヒカリはどうやったらタイムが縮まるのかを考えていた。
「こんにちは」
声が聞こえてきたので、ヒカリはゆっくりと左を見た。すると、そこにはシェリーが立っていた。
「…………こんにちは」
ヒカリはシェリーから目をそらして挨拶を返した。ヒカリはすごく疲れていてイライラしている状態だったので、正直シェリーといえども、今は関わるのが面倒くさかった。
「どう? 調子は?」
シェリーはヒカリに問いかけた。
「…………あまり」
ヒカリはシェリーに対して、少しだけうっとおしいと思いながら返事をした。今は修行が忙しいのでシェリーとの会話に割く時間はない。だけども、シェリーは優しい表情でずっとヒカリを見つめている。それから沈黙が続いた。
ヒカリはシェリーを見てはいないが、シェリーがずっと見つめていることがなんとなくわかった。もしかすると、自分を心配しているのかもしれないと思い始め、少しだけ自分の話を聞いてもらおうと思った。
「……なかなか上手に飛べなくて。どうやったらエドみたいに速く飛べるようになるのか、わかんなくて」
ヒカリはシェリーとは視線を合わせずに、下を向きながら言った。
「うーん。……例えば、飛んでいる時に、ヒカリちゃんが感じている障害ってなんだろうね」
シェリーは落ち着いた口調で言った。
「……空気抵抗。……いや、木が邪魔」
ヒカリは素直に思ったことを伝える。
「じゃ、それを無くせば、もっと速く飛べるんじゃない?」
シェリーはそう言った。
「空気抵抗が無くて、木が邪魔することも無い、さすがにそんなの条件良すぎですよ」
ヒカリは苦笑いしながら言う。
「そうじゃないわ。……空気や木、そういった全ての自然をヒカリちゃんの味方にしたらいいのよ」
シェリーは優しい口調で話す。
「なんですかそれ。意味わかりません」
ヒカリは素直に思ったことを言ってしまった。
「自然に逆らってはダメ。自然に身をまかせ、風に舞う木の葉のように飛ぶの。飛ぶ時に感じる抵抗は、全て自然に逆らったから生まれるもの。いくら魔法が使えても自然の力には敵わないからね」
シェリーは落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはシェリーが何を言っているのかがわからず、黙ってしまう。
「じゃあね。頑張ってね」
シェリーはそう言って去っていった。
シェリーが去った後、ヒカリはシェリーの言葉を思い返した。もしかすると、シェリーはすごく大事なことを伝えてくれていたのかもしれない。だけど、自然に逆らわないなんて無理に決まっているし、言い方は悪いけど理想ばかり言っているような気がする。
ただ、シェリーの言っていることを素直に信じることができたならば、もしかしたら本当に速く飛べるのかもしれない。とはいえ、自然に逆らわないとはどういうことなのだろうか。
もっと深く考えようと思ったのだが、ヒカリの頭にはそれを考えるだけの力が残っていなかった。シェリーには申し訳ないが、そのことを考えるのは後回しにさせてもらって、今はコースを繰り返して、タイムを縮めていくことにしよう。
「もう一回、挑戦してみるか」
ヒカリは立ち上がりながらそう言った。
「よーし。……やるぞ!」
ヒカリは気持ちを高めて、再び水晶玉チャレンジを始めた。
飛び立ったヒカリだが、自分で後回しにしたシェリーの言葉が、頭から離れていなかった。気がつくと、それを考えながら飛んでいた。
ヒカリは木の上の水晶玉に触れて、下の方に戻る動作をしようとした時に、空中に舞う木の葉を見てあることに気づく。
「この葉っぱ……。そっか、そこに風が流れているのか」
ヒカリは木の葉の動きに合わせて飛んでみた。すると、まるで風の道に乗って流されているかのように、面白いほど速く飛べた。
「ふふ。なにこれ。気持ちがいい。これが風の流れなんだ。木にぶつからないギリギリのところを飛んでいける」
ヒカリはあまりにも気持ちが良かったので、楽しくなり笑ってしまう。次の水晶玉は、いつも触れた後、方向転換に時間がかかってしまう厄介なポイントだ。しかし、ヒカリはここでもあるものに気がついた。
「あの太い枝。もしかして」
ヒカリはそう言って水晶玉に触れた後、その近くにある太い枝をバネにし方向転換をした。すると、減速することなく、むしろ加速して次の地点へ向かうことができた。
「やっぱり! へへ。楽しい」
ヒカリは気持ちよく飛ぶことができて、とにかく嬉しかった。最近はずっと飛ぶことを楽しいなんて思えていなかったから。その後も今までとは違い、自然をフルに活用してゴールした。
「八分! やったー! あと少しだ! ふふ。自然に逆らわない。シェリーさんの言うとおりだ。すごく気持ちが良かった。……よし! 目標の五分を切れるように頑張ろう!」
ヒカリはタイムを大幅に縮めることができて、とにかく嬉しかった。そして、元気を取り戻したヒカリは、五分を切れるように毎日夜遅くまで挑戦を続けた。
水晶玉チャレンジのタイムリミットの日。ヒカリはいつもの河原にある少し大きめの岩に、片足だけ体育座りをした姿勢でエドを待っていた。
「おはよう。どうだ調子は?」
エドはヒカリに声をかけた。ヒカリは後ろから来たエドの方を向く。
「ふふ! 絶好調!」
ヒカリは笑顔でそう言うとその岩から降りた。
「ふーん。じゃ、見せてもらおうかな!」
エドは元気よく言う。
「おし!」
ヒカリは気合いを入れた後、エドにストップウォッチを渡し、ほうきにまたがった。
「いつでもいいよ」
ヒカリは目を閉じて言った。
「じゃ、いくぞ。……よーい。……ドン!」
「っしゃあああああ!」
エドが合図を出した途端、ヒカリは大きな声を出しながら猛スピードで森に突っ込んだ。
それからヒカリは、全ての自然に体を預けて飛んでいく。それが毎回決まった飛び方ではないのは、自然が変わりゆくものだからなのだろう。今となっては、自然に逆らっていた頃の自分が理解できない。なぜなら今は、自然は人が信じていれば、必ず応えてくれるとわかっているからだ。ヒカリはそんなことを考えながら清々しく飛んでいった。
そして、ヒカリはあっという間に全ての水晶玉に触れて河原に戻ってきた。
「えっ! もう戻ってくんの?」
エドはすごく驚いていた。そんなにもいい結果なのだろうか。ヒカリがゴールすると、エドはストップウォッチを見て固まっていた。
「……三分四十六秒」
エドは戸惑っているような様子だった。
「へへ! どうだ!」
ヒカリは満面の笑みを浮かべながら、胸を張って言った。
「えっ? ほ、本当に、お前ヒカリなのか?」
エドはすごく驚いていた。
「当たり前でしょ! もう、コツを掴めばこんなもんよ!」
ヒカリはこうやってエドが驚いてくれる結果を得られて、素直に嬉しかった。
「いや、それにしても、俺よりも速いって……」
エドはまだ驚いたままだった。
「これでオッケーだね! エド!」
ヒカリは笑顔で言う。
「…………あぁ。これで合格だ」
エドは優しい笑みを浮かべてそう言った。
「やったー!」
ヒカリは思いっきり喜んだ。
こうしてヒカリは、無事に余裕で空を飛ぶ修行をクリアしたのだった。
ヒカリは水晶玉チャレンジのスタート地点である河原で、気合いを入れた。
「まずは、水晶玉を探さないとな」
ヒカリはほうきに乗り森の中へ入っていく。
「おっと! 危ない! ぶつかるとこだった。このスピードで飛んでてもぶつかりそうになるのに、エドはどんだけすごいのよ。……でも、私もできるようにならなきゃ! いてっ!」
ヒカリは森の中で飛ぶ難しさを痛感した。
それからヒカリは、三日ほどかけて水晶玉の位置を確認し、それを示したマップを作ってみた。
「えっと、水晶玉の場所は把握した。紙にも書いてみたけど……。とにかくすごい広範囲。それに、木の上にあったり根元にあったり。こりゃ大変だな」
ヒカリはマップを見ながらつぶやく。最短ルートはわかったのだが、もっと短時間でゴールできる方法はないかと考える。だが、少し考えてみても、なかなか思い浮かばない。
「とにかく繰り返そう! 何度も何度もやってみて、コースを体に染み込ませなきゃ!」
ヒカリは力強くそう言って水晶玉チャレンジを開始した。
それから、ヒカリは何度も何度も挑戦した。雨の日も、風の日も。体中たくさんぶつけたり擦りむいたりしても、その度に必ず立ち上がり挑戦し続けてきた。魔女になりたいという強い思いがあるからこそ、どれだけ体が痛くても諦めるわけにはいかない。
だが、一向にタイムは縮まらないまま、期限の一週間前になってしまった。この日もヒカリは何時間もの間、挑戦し続けていた。
「……くそっ。…………あと、一週間しかないのにタイムが二十分すら切れない。…………くそっ! もう一回! ……いっ」
ヒカリはとにかく歯がゆかった。そして、ほうきを握っている自分の手を見ると、その部分が血まみれになっていることに気づいた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……」
ヒカリは自分の血まみれになった手を見ながら呼吸を整える。すると、急に雨が降り始めた。タイムが縮まらない歯がゆさ、体中の痛み、それをあざ笑うかのような雨、びしょ濡れになる体。ヒカリの気持ちはだんだんと暗くなっていく。
「…………くそっ!」
ヒカリはその言葉を発することで、自分の嫌な気持ちを発散したかった。だが、発散されない。
「諦めるのか?」
エドは落ち着いた口調で問いかける。ヒカリは言葉が出ない。
「なぁ。…………あと一ヶ月くらい期限を延ばすか?」
エドはそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて、一気に頭に血がのぼった。
「バカにしないで!」
ヒカリはエドを睨みつけながら怒鳴った。エドはじっとヒカリを見ていた。
「たしかに、こんだけ、こんだけ、頑張っても、全然タイムも縮まらないよ! こんなに、こんなに、こんなに、頑張ったのに! 全身痛くてボロボロだし! 本当に苦しい状態だと思うけどさ! それでも! 期限の延長なんてしないよ! ここで甘えが出たら魔女試験なんて受かりっこないから! ちゃんと覚悟したんだよ! 自分の人生懸けてでも魔女になるって!」
ヒカリは下を向き、自分の中にある感情を力強く吐き出した。少しだけ沈黙が流れた後、ヒカリはゆっくりとエドの顔を見た。
「それに、エドが設定した期限を守れないんじゃ、そもそも魔女になれっこないしね。だから……。自分が本気でなりたいものだから! 痛くても、辛くても、悔しくても、絶対に諦めない!」
ヒカリは真剣な表情でエドに伝えた。エドは何も言わなかった。
「もう一回やる!」
ヒカリはそう言って修行を再開した。
それから、何度か練習した後、ヒカリは木に寄りかかりながら座って休憩していた。気がつくと雨も止み、気持ちの良い青空が見えてきた。
「はぁ……。くそっ」
ヒカリはどうやったらタイムが縮まるのかを考えていた。
「こんにちは」
声が聞こえてきたので、ヒカリはゆっくりと左を見た。すると、そこにはシェリーが立っていた。
「…………こんにちは」
ヒカリはシェリーから目をそらして挨拶を返した。ヒカリはすごく疲れていてイライラしている状態だったので、正直シェリーといえども、今は関わるのが面倒くさかった。
「どう? 調子は?」
シェリーはヒカリに問いかけた。
「…………あまり」
ヒカリはシェリーに対して、少しだけうっとおしいと思いながら返事をした。今は修行が忙しいのでシェリーとの会話に割く時間はない。だけども、シェリーは優しい表情でずっとヒカリを見つめている。それから沈黙が続いた。
ヒカリはシェリーを見てはいないが、シェリーがずっと見つめていることがなんとなくわかった。もしかすると、自分を心配しているのかもしれないと思い始め、少しだけ自分の話を聞いてもらおうと思った。
「……なかなか上手に飛べなくて。どうやったらエドみたいに速く飛べるようになるのか、わかんなくて」
ヒカリはシェリーとは視線を合わせずに、下を向きながら言った。
「うーん。……例えば、飛んでいる時に、ヒカリちゃんが感じている障害ってなんだろうね」
シェリーは落ち着いた口調で言った。
「……空気抵抗。……いや、木が邪魔」
ヒカリは素直に思ったことを伝える。
「じゃ、それを無くせば、もっと速く飛べるんじゃない?」
シェリーはそう言った。
「空気抵抗が無くて、木が邪魔することも無い、さすがにそんなの条件良すぎですよ」
ヒカリは苦笑いしながら言う。
「そうじゃないわ。……空気や木、そういった全ての自然をヒカリちゃんの味方にしたらいいのよ」
シェリーは優しい口調で話す。
「なんですかそれ。意味わかりません」
ヒカリは素直に思ったことを言ってしまった。
「自然に逆らってはダメ。自然に身をまかせ、風に舞う木の葉のように飛ぶの。飛ぶ時に感じる抵抗は、全て自然に逆らったから生まれるもの。いくら魔法が使えても自然の力には敵わないからね」
シェリーは落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはシェリーが何を言っているのかがわからず、黙ってしまう。
「じゃあね。頑張ってね」
シェリーはそう言って去っていった。
シェリーが去った後、ヒカリはシェリーの言葉を思い返した。もしかすると、シェリーはすごく大事なことを伝えてくれていたのかもしれない。だけど、自然に逆らわないなんて無理に決まっているし、言い方は悪いけど理想ばかり言っているような気がする。
ただ、シェリーの言っていることを素直に信じることができたならば、もしかしたら本当に速く飛べるのかもしれない。とはいえ、自然に逆らわないとはどういうことなのだろうか。
もっと深く考えようと思ったのだが、ヒカリの頭にはそれを考えるだけの力が残っていなかった。シェリーには申し訳ないが、そのことを考えるのは後回しにさせてもらって、今はコースを繰り返して、タイムを縮めていくことにしよう。
「もう一回、挑戦してみるか」
ヒカリは立ち上がりながらそう言った。
「よーし。……やるぞ!」
ヒカリは気持ちを高めて、再び水晶玉チャレンジを始めた。
飛び立ったヒカリだが、自分で後回しにしたシェリーの言葉が、頭から離れていなかった。気がつくと、それを考えながら飛んでいた。
ヒカリは木の上の水晶玉に触れて、下の方に戻る動作をしようとした時に、空中に舞う木の葉を見てあることに気づく。
「この葉っぱ……。そっか、そこに風が流れているのか」
ヒカリは木の葉の動きに合わせて飛んでみた。すると、まるで風の道に乗って流されているかのように、面白いほど速く飛べた。
「ふふ。なにこれ。気持ちがいい。これが風の流れなんだ。木にぶつからないギリギリのところを飛んでいける」
ヒカリはあまりにも気持ちが良かったので、楽しくなり笑ってしまう。次の水晶玉は、いつも触れた後、方向転換に時間がかかってしまう厄介なポイントだ。しかし、ヒカリはここでもあるものに気がついた。
「あの太い枝。もしかして」
ヒカリはそう言って水晶玉に触れた後、その近くにある太い枝をバネにし方向転換をした。すると、減速することなく、むしろ加速して次の地点へ向かうことができた。
「やっぱり! へへ。楽しい」
ヒカリは気持ちよく飛ぶことができて、とにかく嬉しかった。最近はずっと飛ぶことを楽しいなんて思えていなかったから。その後も今までとは違い、自然をフルに活用してゴールした。
「八分! やったー! あと少しだ! ふふ。自然に逆らわない。シェリーさんの言うとおりだ。すごく気持ちが良かった。……よし! 目標の五分を切れるように頑張ろう!」
ヒカリはタイムを大幅に縮めることができて、とにかく嬉しかった。そして、元気を取り戻したヒカリは、五分を切れるように毎日夜遅くまで挑戦を続けた。
水晶玉チャレンジのタイムリミットの日。ヒカリはいつもの河原にある少し大きめの岩に、片足だけ体育座りをした姿勢でエドを待っていた。
「おはよう。どうだ調子は?」
エドはヒカリに声をかけた。ヒカリは後ろから来たエドの方を向く。
「ふふ! 絶好調!」
ヒカリは笑顔でそう言うとその岩から降りた。
「ふーん。じゃ、見せてもらおうかな!」
エドは元気よく言う。
「おし!」
ヒカリは気合いを入れた後、エドにストップウォッチを渡し、ほうきにまたがった。
「いつでもいいよ」
ヒカリは目を閉じて言った。
「じゃ、いくぞ。……よーい。……ドン!」
「っしゃあああああ!」
エドが合図を出した途端、ヒカリは大きな声を出しながら猛スピードで森に突っ込んだ。
それからヒカリは、全ての自然に体を預けて飛んでいく。それが毎回決まった飛び方ではないのは、自然が変わりゆくものだからなのだろう。今となっては、自然に逆らっていた頃の自分が理解できない。なぜなら今は、自然は人が信じていれば、必ず応えてくれるとわかっているからだ。ヒカリはそんなことを考えながら清々しく飛んでいった。
そして、ヒカリはあっという間に全ての水晶玉に触れて河原に戻ってきた。
「えっ! もう戻ってくんの?」
エドはすごく驚いていた。そんなにもいい結果なのだろうか。ヒカリがゴールすると、エドはストップウォッチを見て固まっていた。
「……三分四十六秒」
エドは戸惑っているような様子だった。
「へへ! どうだ!」
ヒカリは満面の笑みを浮かべながら、胸を張って言った。
「えっ? ほ、本当に、お前ヒカリなのか?」
エドはすごく驚いていた。
「当たり前でしょ! もう、コツを掴めばこんなもんよ!」
ヒカリはこうやってエドが驚いてくれる結果を得られて、素直に嬉しかった。
「いや、それにしても、俺よりも速いって……」
エドはまだ驚いたままだった。
「これでオッケーだね! エド!」
ヒカリは笑顔で言う。
「…………あぁ。これで合格だ」
エドは優しい笑みを浮かべてそう言った。
「やったー!」
ヒカリは思いっきり喜んだ。
こうしてヒカリは、無事に余裕で空を飛ぶ修行をクリアしたのだった。